秋風が掠める(2)
補完する!
カラン、とさえぎる音と共に、二つのグラスが宙で触れ合った。
「久しぶりだな」
「ああ、五年……いや、六年ぶりだな」
男たちはテーブルを囲み、酒を飲みながら思うまでに話を弾ませる。
「今は何してる?」
「俺? 相変わらず小説を書いてるよ。ただ、まとまった作品は久しく書いてない。今はただ、遊びで書いてるだけだ」
「昔の夢は? 壮大な作品を書き上げるって言ってただろ」
問われた男は頭を掻いた。
「あれは酔った勢いで言ったことだ。覚えてない」
「ほう……酔って言ったのか、それとも、そばに誰かがいたから、大風呂敷を広げたのか」
男は笑ってグラスを掲げた。
「秘匿。一気で償う」
そう言って、持っていた酒を一気に飲み干した。
「羨ましい恋だったな。なのに、結局は残念な結果で終わった。別れてから、ほかの女と付き合ったりしたの?」
「してないよ。知ってるだろ、俺は一生に一人しか愛さないって骨まで刻み込んでる。お前みたいに遊び人気取りで、あちこち手を出すわけない」
さらに一杯飲み干し、男の言葉には酔いが混じってくる。
「ばか、俺ばっかり問うな。お前はこの六年、どうだった?」
もう一人の男はグラスを眺め、静かに揺らしてから残りを一気に飲み干した。
「半分半分だよ」
「半分半分って何だよ、ばか、ちゃんと言え」
男もまた、グラスの酒を空にした。
「知るか。もう行くね。また機会があれば」
その言葉を聞いて、男の酔いは三分醒めた。
「ああ……そうだよ。お前は天才音楽家だからな」
店を出た男は一本の煙に火をつけ、ゆっくりと息を吐き出す。
「俺はただのどうしようもない小説家で、一生かけても届かないものは、小説の中でしか叶わないんだ」
煙を消し、男は家の方へ歩き出した。
「楽勝だわ。まったく、あの人には及ばないわ」
整った顔立ちの女が、遠くに去っていく恋人たちの姿を眺めてつぶやいた。
そして、思い直したように苦笑いした。
「何を言ってるのかしら」
小さく溜め息をつき、女は空を見上げる。
「綺麗な月だわ。でも、もうすぐ冬になるのに」
そよぐ風が髪をなびかせ、女は手で髪を押さえながら、ふと思い出した。
いつか誰かが、彼女の手帳の表紙に書いてくれた詩の一節を。
秋風、春風の意を得ず、
枯葉、雪に落ちて人を悲しませる。




