秋風が掠める(1)
これは一人だけの物語ではない。
この町を巡る、雪にまつわる物語だ
久しぶりに故郷へ帰ってきた。
懐かしい風の音を聞き、心が少しだけ癒された。中国南部のこの町で、僕は相変わらず、何度も書いては捨てる原稿を書き続けていた。
「もういい、外へ出よう」
扉を開けると、肌に冷たさが伝わってくる。
「秋は、もう終わっちゃったんだな」
独り言をつぶやき、記憶の導くまま足を運べば、いつの間にか、彼女と初めて出会った場所に戻っていた。
枯れ葉がサラサラと肩をすり抜ける。
「元気にしてる?」
景色に心を動かされ、思わず声に出してしまった。
「明日、休みだから、今夜ちょっと遊びに行かない?」
「うん、いいよ」
反射的に答え、慌てて顔を上げる。
遠くでカップルが休日の予定を話しているだけだった。僕は思わず苦笑した。
「秋って、いつも別れを思い出すよね」
「そうだよね。昔、この高校にすごい作家がいて、『秋の葉、サラサラと音を立てて』って小説を書いたんだ、あれは……」
言いかけた瞬間、担任の先生がチョークを投げつけ、頭に直撃した。
それが俺の親友、ルーメンだ。
「秋の葉、サラサラ……確かに季節には合ってるな」
そっとつぶやく。
チャイムが鳴り、教室を出たところで足を止めた。
「明日、休みだから、今夜遊びに行かない?」
声をかけてきたのは、恋人のリサン。
俺はこの高校で、どうしようもない落ちこぼれ、ヤージョンだ。
「なんで直接来たの? 下校後、東屋で待つって言ってたじゃん」
僕はリサンの頬をつまんだ。
「あそこに人がいたから」
校舎裏の東屋には、二十七、八歳くらいの男が立っている。
僕が視線を向けると、男もこちらをじっと見つめ返してきた。
「……ほら、夜、出る?」
気を取り直してリサンに話しかける。
「うん、いいよ。夜、遊園地行こ?」
「バカな。夜はもう閉まってるよ」
リサンが僕の頭を軽く叩いた。
「わざと冗談だよ。明日遊園地に行って、今夜は街をぶらついて、ネットカフェでゲームしよう。どう?」
「うん。ヤージョンと一緒なら、何でも嬉しい」
「俺もだよ。リサンと一緒なら、何だって嬉しい」
僕は彼女の頭を優しくなでた。
今の僕は、目の前のカップルを後ろから眺めていた。
「最近のカップル、みんなこんな感じなのか。クソったれ」
「昔のお前も、そんな感じだったじゃん。他人に言う資格ある?」
背後から声がする。
「うるせえ」
反射的に返事してふり返ると、見覚えのある姿が目に飛び込んできた。
「久しぶりだな。夜、飲みに行かないか?」
――
「よし、ガードしろ、必殺技受けろ! おう、また勝ったぜ!」
ゲーム機に「K.O.」と表示されるのを見て、僕は得意げにリサンを見た。彼女は唇を尖らせた。
「ねぇお姉ちゃん、この無神経な彼氏、たたいてくれない?」
「いいよ~、お姉ちゃんが地面に張り付けてあげる」
「手強いぞ」
目の前には大学生くらいの女性が立っていて、短い髪がきちんとまとまっている。
僕は内心、勝てるかどうか自信がなかった。
ゲームが始まる。
僕の攻撃は、すべてガードされるか、回避されるか。
やがて「K.O.」の音が鳴り、僕の笑顔は消え、手をたたいて喜ぶ二人に移った。
「お姉ちゃん、じゃあね!」
リサンがその女性に声をかける。
「気をつけて帰ってね」
女性は優しく手を振ってくれた。
「さっきのお姉ちゃん、すごく綺麗だったね」
リサンがつぶやく。
「僕の可愛いリサンのほうが、断然綺麗だよ」
「今さら機嫌取っても遅いよ。さっきはなんで譲ってくれなかったの?」
リサンは足早に進み、ふり返ってペロッと舌を出した。
「また明日ね」
「うん、おやすみ」
リサンがマンションに入るのを見届け、僕も急いで自宅へと帰った。




