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記録ファイル 03

 『彼が貴族の茶会から帰ってきた時、私の目に映ったのは果てしない喜びを噛み締めている顔だった。一体何があったのか。私ははじめて選択を誤ったのだと感じた。』

 「……てっきりくたびれて帰ってくると思っていたが、なにがあったのか聞いてもいい?」

「カナメ!俺みたいな一般市民に貴族の友達ができたんだ。こんなに嬉しい事はないよ!もし工房が潰れても頼れるところができたんだ!」

「なんだ、お友達係になったのか。」

「係なんて事務的なものじゃないよ。心を通わせたんだ。」

 アルベルト子爵が友達、ね。

 これは一般市民からの成り上がりが始まるか……?

「一体全体、何があったのか聞かせてよ。これは記録係としての質問だよ。」

「もちろんだとも。こんなことをおまえさんくらいにしか言えないからな!」


 上機嫌のリドルグの話は長い。

 いつもの淡々とした会話はどこへ行ったのやらと、探しにいきたくなってしまう程に。

 「君の話を聞いてたらすっかり星が見えてしまったじゃないか。おまけに内容はそこまでないし。」

 簡潔にまとめると、あれだ。

 アルベルト子爵が一般市民と関わりを持って上流階級と下流階級の隔壁をなるべくなくしたいのだろう。で、リドルグは一般市民のなかでも信頼が集まっている若者。

 リドルグという人物に興味があった訳ではなかったのだ。まあ、本人に言うのもあれなので黙っておこう。

 「ところでリドルグ、君は茶会に行く前になぜ自分が記録対象者となったのかと、言っていたな。」

「え、ああ。そうそう、なんで俺なんだ?」

「記録対象者となるパターンは2つ。1つは協会側が記録を付けるべきと判断した場合だ。公の場にいる記録係もこっちの部類。もう1つは記録係本人による希望だな。この人物をどうしても記録したいといい強い意志だ。ただしこちらは条件がかなり厳しい。今までこれが通った記録は……一度だけだね。」

「意外だな。一回は通ってる。前例があるのか。」

「と言ってもね、あれはかなりの例外だと思うよ。始めての記録係だしね。おまけにその記録係は元王族だったし、対象も当時の王様。当時の教会はちょっとした権力にすぐつぶされちゃうくらいに弱かったから。」

「あれ、勝手な俺のイメージだけど記録係制度って割と最近始まったんじゃなかったっけ?でも今の王様に記録係なんて居なかったと思ったんだが……。」

「記録係制度自体は古くからあるよ。それが大々的に公表されたのが最近ってだけ。」

「なるほどな。……ってことは俺は協会側から指定されてる対象者ってことか。」

「まあ、そうだね。といっても君の場合ランダムで選ばれてるから別に犯罪者予備軍ってことでもないよ。安心して。」

「……ランダムで私生活が暴かれてると考えると嫌な制度だな。」

 確かにそう言えなくもない。というかそうとしか言えない。こちら側の勝手な都合でプライバシーを無視してる事に変わりはない。そこは、まあ、申し訳ないとはおもっている。

 『彼、リドルグはアルベルト子爵と友人関係になった。と、喜んでいた。それに対して裏があるという表現が合っているかはわからないが、特別彼と友人になりたかった訳ではないようだ。また、彼は我々記録係についての質問をしてきた。我々の存在について今一度考えるべきなのかもしれない。少なくとも彼は我々に対して少しの不信感を覚えている。』

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