記録ファイル 02
『この街には珍しく快晴で、黒い煙の向こうにある青い空が輝いているように見えた。今日は彼、リドルグが貴族であるアルベルト子爵と茶会をする日である。』
「いってらっしゃい、と言われたいか?」
「その言葉って言われる側に選択肢あるのか?」
「疑問に疑問で返すとはナンセンスな。」
「俺はどっちかっていうとおまえさんがついてこない事に驚いてるよ。いつも記録係としての務めだのなんだの言ってついてくるじゃんか。」
「もちろん記録係としての私から言わせてもらうと、ついていかないなどあり得ないけど、今日は教会の方に用事があるからね。ついていかないよ。」
リドルグは他の記録対象者に比べて素行がいいからな。貴族の茶会の場だ。そうそう大事は起こさないだろう。どうせ向こうにも記録係はいるだろうし。
「ずっと思ってたけど、記録対象者ってなんで選ばれるの?全国民にいる訳でもないじゃん。俺なんて普通の奴にもいるしさ。」
「帰ってきたら教えてあげる。とりあえず今日の茶会、楽しんで。」
彼を扉の向こうに追いやる。先ほど時代錯誤な馬車の音が聞こえた。迎えを用意してくれたのだろう。単なるお貴族様の気まぐれという訳でもなさそうだな。
さて、私も出かけるか。
なぜか常に晴れている教会本部。その実態は教会の上空に雲が出来たら即時に強い風を起こして吹き飛ばしているから。そのうち神話をゼンマイ仕掛けで再現しそうだ。
「おや、カナメさんではありませんか。」
「こんにちは、ムツキさん。相変わらずの糸目ですね。」
教会内部で行われた話しかけづらい人アンケートで一番多く名を連ねた男、ムツキ。私と同じ市民生活記録課……だったはず。正直自分の役職以外覚えてないから怪しい。
「カナメさんがここにいるなんて珍しい……。記録書を提出に?」
「いえ、提出ならいつも郵送にしています。今日は久しぶりに神に祈ろうかと。」
「カナメさんが……?!ご一緒しても?」
「かまわないが、なんだ今の反応。私も一応信者ではあるぞ。信仰心は薄いがな。」
私達が信じる神というのは明確な名を持たない。が、神であることだけは確かなのだ。
なぜか、それは神話を読み解くことでわかる。
といってもちゃんと神話を読もうとしたら日が暮れるので、代表的なものと言えば……言語の統一とか、あとは能力の付与とかかな。
言語の統一は言葉の通り。とある昔の旅人が言語の統一を願い、気まぐれに神が叶えたというもの。
能力の付与は……まあ、加護かな。人間が教会の本部で祝福を受けると、神が稀に能力を与えるといった具合に。
まあ、この話でわかるのは神って奴は気分屋ってことかな。
教会は神が成したことを人々に伝え、祝福を与えたり、人々の歩んだ歴史を記録・管理するために存在する。『信じる者にちょっとした幸を。』それがこの教会が掲げる理念だ。『信じないよりも信じた方が得だな。』というのが理想像らしい。
彼が茶会から戻るまで、しばしの休息を得た。
帰ったら、彼はどうなっているのだろうか。何か失礼をしてしまったのではないかと気に病みそうだな。




