記録ファイル 01
『視界いっぱいに広がるのは緑を殺し、人が塗り替えたただただ情報量が大きいだけの世界。
あちこちから吹き出ている煙は社会の負の面を写し出している。』
暗闇の中にぼんやりと人の影が見える。その影はどうやらまだ新しいノートのページをペンで滑らせていた。
「カナメ、何を書いているんだ?」
声をかけられた人の影はゆっくりと顔をあげ、声をかけてきた相手の目を見て言った。
「記録。」
と。それを聞いた相手は答えを気に留めるわけでもなく、
「昼メシ、できたからな」
とだけ言って踵を返してしまった。どうやら、記録を取っていること自体に興味はなかったらしい。
「あ、待ってよリドルグ。それも記録するから。私の分残しておいて。」
リドルグと呼ばれた男は、
「なら、とっととこい。」と声だけを返した。
私はカナメ。記録者をやってる。目に映り、聞こえたものを書き記すのが仕事。記録にまとめてそれを本部にいる仲間に送り管理してもらう。市民生活記録課の一人。
この記録は教会が文化の継承のためにとっている。まあ、記録者は別に信者ってわけでもないけど給料がいいからやってるみたいな人、結構いる。感じたままの記録を求めてるらしくってどんな酷い書き方してもウソを書いても減給はないから記録の意味があるのかはよくわからない。
私はリドルグ・フィールズという男を専ら記録している。理由は単純、面白そうだから。彼はこの機械仕掛けの世界に生きるよくいる作業員なんだけど、人柄の良さからか彼の周りには所謂善人が集まる。人に好かれやすいのだろう。突然押しかけた私を優しく迎えてくれたあたり、道端に小動物がいたら拾うタイプなのではないかと予想している。その予想が当たるか外れるか、今度試してみるとするか。
最近彼の回りで起きた面白い事と言えば、お貴族様から茶会の誘いが彼の元に届いた事だろう。あの時の慌てようはなかなかであった。
あれ、結局茶会には行くのだろうか。今聞いてみようか。
「リドルグ、この前来てた貴族からの茶会、行くのか?」
「珍しいな、おまえさんが俺の予定気にするなんて。行くよ。俺みたいな一般市民に拒否権はないようなものだし。」
身分が上のものには逆らえないってやつか。
「その貴族、教会への資金援助してるから書くのにちょうどいい。」
「記録と言いつつほぼ日記じゃないか。」
「否定はしない。」
みんなこんな感じに書いてるし。
「楽しむといいよ。めったに貴族から誘いなんて来ないんだし。いっそのこと気に入られて工房に仕事を持って行ったら親方さんも喜ぶんじゃないかな。」
「親方がね……。あの人貴族とか嫌いそうだしどうだかな。」
最近の貴族が自分だけ良ければそれでいいみたいな思考する人が増えてるからね。
現に中心地からちょっと離れた町での大規模な爆発について対処が全くといいほどなされなかったし。被害は結構大きかったってのに。
「誘いがあったのってアルベルト子爵でしょ?あの家は割と清廉潔白で有名だし、私が見れる記録内ではそんなに酷い書き方されていないから安心していいって。」
「おまえさんって他の人の記録見れたりするんだ。」
「ほんの少しのだけね。君があんなにソワソワしてるから。ご飯作ってもらってる恩があるからちょっとだけ教えてあげようかなって。」
「それはお優しいことで。」
『私の記録対象者は貴族との関わりが薄い。ゆえに知らせを受けてからというもの心が落ち着かない様子だ。相手はヴィンツェンツ・エンリコ・アルベルト。教会への寄付が多く、信仰の強い人物。この出会いが彼、リドルグに対してどのような影響を与えるのか。引き続き観察を続ける。』
読んでくださりありがとうございました。




