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「やりすぎだったんじゃないの、ガイ」
シウレンが眉をひそめて言った。
「電撃をもう少し緩めれば、キャスリーンと金華猫を分離させることはできたかもしれない。分離させておいて、金華猫のほうだけを退治するという方法もあったんじゃ……」
「甘っちょろいことをいうんじゃねえよ!」
ガイが強い口調でシウレンの言葉を遮った。
「金華猫ってのはそうとうの強敵なんだ。動きが速いばかりか、元が月のエキスだから、掴まえようとすると霧状になって逃げちまう。人間の中に入っている状態でないと補足はできない。
だから、ああするしかなかったんだ」
確かに仏山派の長老もそう言っていた。
勝機はガイの操る雷の一撃。
しかも、シウレンの触媒作用によって力を強めるだけでなく、金華猫が別の獲物に夢中になって、注意がおろそかになっている隙を狙うしかない。
だからガイは、あのアマチュア道士がズタホロにされても眉ひとつ動かさず、物陰からずっと勝機を探っていた。
そして、ここぞという一番で己の力をふるったのだ。
正確には、あれは稲妻ではない。
雷は本来、金に属する道士の扱う武器だ。
彼の名は、魏剣峰。
仏山派きっての土の道士である。その名は、業界ではすでに、かなりの評判となっている。
土の道士が得意とするのは、地面や岩を扱うことばかりではない。
ガイは己の獣として麒麟を使う。
ゆえに今回も麒麟を呼びだし、天を駆けあがらせて、高い雲の間に蓄えられていた稲妻をくわえてこさせたのだ。
一方、電気を帯びたものであろうがなんだろうが、力のあるものを地面に呼び寄せるのは、それこそ土の道士の得意とするところである。
ゆえにあの雷は本来のジグザグな動きをせず、天から真っすぐ地面を目指してきた。
それを利用して、ガイは金華猫の芯の部分を一気に貫き、滅ぼした。
電気は、上手に導けば地面に誘導される。その性質を効果的に利用したのだ。
「けど、ガイ……」
「俺は甘ちゃん道士の跡継ぎとは違うんだ。プロと名乗るからには、引き受けた仕事は必ず成功させる。それが俺たちの生きている意味であり、目的でもある。そうだろう、シウレン」
シウレンはためらいつつ、曖昧に頷いた。
その姿に、自分に対する無言の批判を感じたのだろう。
ガイはますますいきり立った。
「シウレン、お前は忘れたのか。幼い頃から俺たちが受けてきた、厳しい修行を。俺たちは常に成功しなければならないんだ。そうでなければ俺たちのあの苦しい日々に、なんの意味があるというんだ? 俺たち孤児が人に認められるにはこうやって生きるしかないと、二人で誓いあったあの日を忘れたのか!」
詰め寄られて、シウレンはますます俯いた。
ガイとシウレンは香港の生まれではない。本当はどこの生まれか、自分でもよく知らない。
物心ついたときは大陸の辺鄙な田舎の、今にも崩れてなくなりそうな孤児院で暮らしていたからである。
そこへ仏山派の道士と名乗る老人が尋ねてきて、全員を並べて頭のてっぺんから足のつま先までをしげしげと見分した挙げ句、ガイとシウレンの二人を引き取ってくれたのだ。
お前たちには道士の素質がある、と老人は言った。
多くの流派で、女は道士になれない。しかしシウレンは他人の能力を増幅するという稀有の素質を持っていた。
そのため、ガイのたぐいまれな能力をさらに強化するツールとして拾われたのだった。
それからというもの二人は常に一組で、朝も夕も寝る暇さえ削られるほどの修行を強いられてきた。
それでも二人は、あの孤児院に戻されるくらいならと思い、歯を食いしばって耐え抜いたのである。
おかげでガイとシウレンは、大陸中から集められてきた孤児たちの中でも飛び抜けて優秀という評価を得た。
それゆえに、華やかな憧れの大都会、香港での暮らしを勝ち取ることもできたのだ。
「シウレンは知らないだろうが、あいつは朱天火という半人前の道士だ」
いかにも腹立たしげに、ガイはその名を口にした。
「かつては香港でその人ありと知られたベテラン道士の息子でありながら、道士としての修行は完全に自己流。それどころか、火の性を持っていながら、いまだに火種を使わなければ炎を操ることもできない半人前と聞く」
そうかしら。
口に出せばガイが怒るのはわかりきっているので、心の中だけでシウレンは疑問を呈する。
火種を使うからといって、あの人の炎の技が稚拙だとは見えなかった。
いえ、仏山派の年かさの道士の中でも、あれほどの炎を操れる者は一人もいない。
あの人には天性の能力がある。
それだけでなく、彼の使う炎にはぴんと張り詰めた筋がある。
彼の強い意志と正しい心が透けて見える。
あの日あのとき、彼が金華猫にかなわなかったのは、憑依された人々の命を救おうとしていたからだ。
それは優しさであり、強さでもある。
「あんなやつに、俺は負けない」
しかしガイは、あくまでそう言い張るのだ。
俺はプロだ。運命に選ばれた、偉大な勇者だ。
父親を師匠にしてぬくぬくと育ったお坊ちゃんなんか、相手にする値打ちもない。
それなのになぜ俺は、あいつがこんなに気になるんだろう。
息も絶え絶えのあの状態でなお、キャスリーンを殺して金華猫を倒した俺を睨みつけたあいつのまなざし。
あの強い目の光が、ずっと俺の胸にくすぶっている。
自分の行動が正当だったと口にするたびに、心の奥のほうをちくりと刺してくる。
「くそっ」
ひとつ吐き捨てて、ガイは上着を床に叩きつけた。
なぜ、俺は。
これがガイとフォウ、二人の道士の宿命の出会いであった。




