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お姉さまの幸せだけ約束された世界で私が幸せになる方法  作者: DAKUNちょめ


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1/4

虐げられる姉と、虐げる妹。

最近よく見かける、家族に虐げられていた女性が幸せになる的な話を自分も書いてみたいなと思って。

そんなお遊びに、お付き合い下さい。

「遅いわ!こんな簡単なおつかいも出来ないなんて!

ホント、お姉様って何の役にも立たないのね!」


私は、おつかいから帰ったばかりの姉クラリスが玄関のドアの前に立った所で、手にしたコップの水を姉の胸目掛けてぶっ掛けた。


「ご…ごめんなさい…。役に立てなくて…。」


「ふん、ずぶ濡れで見苦しいわ。

早く中に入って着替えなさいよ。」


コップの水を胸に掛けられた姉は、侍女が着る様な質素なドレスの前を水を滴らせながらドアを開けて邸に入り、パタパタと小走りで自室となっている階段脇の下にある納戸へと向かった。



「…花瓶の水を頭から浴びせられるよりは、少しはマシだったかしら…。」



本来━━

この場での姉クラリスは、玄関から邸に入ったエントランスで妹の私に花瓶の水を頭から掛けられてずぶ濡れになり、濡れた姿のままで水浸しになった床を這いつくばるようにして掃除させられる。


そうならないように、私は不自然にも水が入ったコップを持って玄関の外でドアの前に立ち、姉がおつかいから帰るのを待っていた。

外ならば水浸しになった所で拭き掃除はしなくて良い。


はたから見れば、コップ片手に玄関前に立つ私の行動は意味不明だろう。


でも私は知ってしまった……。

この世界が、姉クラリスが幸せになる為に作られた世界である事を。

姉を蔑ろにした者たちが後々不幸な目に遭い「ざまぁ」と言われる状態になって退場させられる世界である事を。



姉のクラリスは、綺麗な金色の髪に、青い瞳の美しい顔立ちの18歳の少女だ。

だが、幼い頃に魔力の暴走により自身の顔を傷付けてしまい、眉間の下辺りから左目の下に渡る長い傷痕が出来てしまった。

貴族が魔力を持つのは当然だが、より強い魔力がある者は重宝される。

だが強大な魔力を持ちながらも制御出来ない者は出来損ない扱いされ、姉は幼い頃から魔力を制御する首輪を着けられている。

魔法を使えない状態な上に顔の傷痕も相まって、姉は「貴族家に不名誉をもたらした厄介者」という扱いになっている。

家族に、家族として扱われない。

それどころか、貴族令嬢としてすら扱われず、侍女のような…いえ、奴隷のような扱いを受けている。



でも私は知っている…ううん、知ってしまった。

不幸になるはずだと思っていた姉が幸せになり、姉より幸せになれると思っていた私が不幸になる未来を。


「なんて言うか……

それを知った時点で一時期、「なんで私ばかり不幸な目に」って姉を物凄く憎んだけれども……

姉に当たり散らせば私がより大変な目に遭うって気付いて…。

因果応報って言葉もあるし反省して、それこそ不自然なほど優しい妹になってみたのよね。」


結果━━

私の結末は何も変わらなかった。


私は姉の幸せな姿を目の当たりにし、妬んだり羨んだりするのだけれど、そんな心根では幸せになれるワケ無いわね、と反省。

心を入れ替え、姉思いのいい妹をやってみた。

そしたら私が姉をいびらなくなった分、両親が姉を折檻する頻度が増えてしまった。

私が苛めていたより姉が生キズ絶えない状態になり、その後は結局姉は幸せ、私は不幸な結末に行き着く。


私の不幸な結末、それは姉と会う事がなくなってからの未来で私は必ず投獄され死に至るという。


いつしか、どうあっても私は不幸にしかなれないのだと気付いてしまった。

だから姉を恨む?憎む?

恨み過ぎて、もう恨むのも呪うのも面倒臭くなってしまったわ。

私、もう何回この世界を経験し続けているのかしら。

私以外にも、この世界が繰り返されている事に気付いてる人は居るのかしら…。

もしかしたら私たちは誰かが読む本の中の登場人物で、読み返されるたびにまた1ページ目から人生という物語を演じなきゃならない。

そんな風にさえ思えたりする。

私は物語のクライマックスを知っているのに、避ける事も変える事も出来ない。


人は死んだら終わりでしょう?

なのにまた、必ず不幸になる自分に戻される。

生まれ変わる先が、また幸せになれない今の自分なのなら…

もう、生まれ変わったりせずに魂ごと消えてしまいたいくらいだわ。



ガシャーン!!

居間の方で激しく何かが割れる音がした。 

私は今までの過去に経験したいくつもの「今」の記憶を探り、情報を思い出す。


「これは…ハッ!思い出したわ!

お姉さまが、居間でお父様にぶっ叩かれている!」


私はドレスの裾を上げ、居間に飛び込んだ。

居間では、父に激しくぶたれているお姉さまがいた。

姉さまは床に座り込んだ姿勢で、父の平手を受け続けている。


「お前の顔を見ているだけで腹立たしい!

その辛気臭い顔をわしの前に見せるんじゃない!」


今は頭や体をはたかれているけど、床にしゃがむまでは顔もぶたれていた様で、口の端から血が滲んでいる。


「ゼェ…いっ…ハァ…いいザ、ザマですわね!お姉様!!」


居間に飛び込んだ私は、ビシッと姉さまを指差して父の気を引いた。

走って来たので少し息切れしておりますが、何とか父の気を引いて蛮行を止められたのではないかしら。


「お父様!姉さまなんか構ってないで、わたくしを可愛がって下さいませ!」


「おお、わしの可愛いアニーや。ぐふっ!」


抱き着く様に父の胸に飛び込みつつ、さりげに下っ腹に肘鉄を食らわせた。

父の胸にグリグリ肘を押し付けつつ、姉クラリスを見る。


「まだ居たの?早く消えてよ、目障りなんだから!」


私が冷たく、そう言うと、濡れたドレスにぶたれて腫れた顔、そんな悲惨な姿の姉さまは小さく「はい」と答えて居間を出て行った。


「可愛いアニー、まだまだ甘えん坊さんだな。」


デレデレと鼻の下を伸ばしきった父の胸に抱き着いたまま、私はコクリと頷く。


「お父様は私だけ見てて下さらないと!

姉さまなんか無視して下さいませ!」


━━━━このアホ親父!

姉さまが悲惨な目に遭えば遭うほど、私の死に様がよりひどくなるのよ!━━━━


この世界は私にとって本当に やりにくい 世界だ。


姉が非道い目に遭えば遭うほど、私の『結末』の内容が大変な事になる。


投獄され死亡━━というのは変わらないのに、その投獄のされ方や環境、死亡原因に差が出るのだ。

今までで一番マシだったのが、とても寒い牢獄で眠気に襲われスゥッと眠るように凍死したパターンだろうか。


出来れば今回もそのパターンか、とにかく痛くない、苦しくない、一瞬とか気付かない内にポックリ、そんなパターンで逝きたい。


そうなる為には、姉をあまり非道い目に遭わせてはならない。

だが私が姉を庇えば、両親からの姉への折檻がひどくなる。

かと言って私が以前通り姉をいびりまくると、これまた姉が受けた非道い仕打ちとして両親の仕打ちに加算されてしまい、結局私が大変な目に遭う。


一番凄惨だったのは私が両親と共に姉にかなり非道い仕打ちをしていた時で、投獄中に散々拷問された上に絞首台の階段の前で民衆によってもみくちゃにされて死んだ時だったか…

罵声を浴びせられた上に、死因が特定出来ないほど殴ったり蹴られたり毟られたり刺されたりした。

もうあの苦痛と恐怖を味わいたくない。


再び自分がそうならない為に、姉が非道い仕打ちを受ける加減を『絶妙な非道い目加減』にしなければならない。

いや…もう意味不明だわ。


姉が全く非道い目に遭わないように出来れば結果は違うのかも知れないけど。

以前、姉に暴力を振るわないようにと両親を強く説得したら、妹をたぶらかしたと、より姉への折檻が非道くなった。

その時の私の死因は絞首刑だった。


ならばいっそ、私がこの手で両親をぶっ倒してやろうかとも思った事はあるけど…。

私にはそんな力も度胸も無く、今に至る。



自分が死ぬ事を踏まえた上で、少しでも苦痛から逃れたいと奮闘する私は、なんて不毛な人生を送り続けているのだろう。

天寿を全う出来るような幸せな人生を送る事はもう諦めたわ。

今一番強く願うのは、死を迎えた先にまた私の人生が始まっていない事よ。




私は父に甘えながらの怒りの肘鉄と足踏みを数回やらかしてから居間を出た。

今の私に、両親に甘えたいなんて感情は一切無い。


どちらかと言えば「お前らのせいで私が」とムカついている。


「アニ……アンナ。」


居間の前で突然、姉に声を掛けられた。

姉自らが私に声を掛けてくるのは珍しいパターンだ。

気になるわ…私に何を言いたいのかしら。


「話し掛けて来ないでよ!貴女が私に何の用なの!

ところで何の用なの!聞くから言ってみなさいよ。」


自分で言うのもなんだけど支離滅裂だわ…。

でも私は優しい妹になってはダメなのよ。


「アンナ……貴女は今、幸せ?」


これは……今までの数多くの私の人生の中で、初めて言われた言葉だわ。

どういうこと…?

幸せじゃない、幸せになりたいって言っていいの?


「幸せに決まっているじゃない。

少なくとも今の惨めな貴女より、今の私は幸せよ!」


居間には父がいる。

ドアの向こうで父が耳をそばだてているかも知れない。

だから私は姉の敵でいなければならない。


今は惨めな姿の姉が、顔の傷痕も消え、解放された魔力も上手く使いこなせる、美しい貴婦人として私たちの前に現れるまでは。






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