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風俗嬢に恋をするなんてありえない。  作者: とある中年男性


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1/2

出逢い。

俺は風俗店で働き、日々「看板嬢」になれるような子を探している中年の男だ。

店を支える存在を見つけることは、この仕事をする上での最大の使命でもあった。


その日も俺は、いつものように《ヘブン》で他の店のサイトを眺めていた。

いくつものプロフィールを流し見し、スクロールする指を止めたのは、ある女の子のページだった。


源氏名は——仁美。


正直に言えば、写真写りは良くなかった。華やかさも派手さもなく、ぱっと見の印象は弱い。

だがなぜか胸の奥で引っかかった。

そう思いながらも、すぐには指名できなかった。期待外れだったらどうしよう。時間も金も無駄になる。そんな考えが頭をよぎる。

けれど数日間悩んだ末に、俺はついに彼女を指名することにした。


(……行ってみるか。)


覚悟を決め、俺は彼女を指名した。


——そして、ホテルのドアが開いた瞬間。


「はじめまして、仁美です。」


そこに立っていた彼女を見て、俺の思考は止まった。

写真とはまるで別人だったからだ。


作ってる感じがまるでなくて自然体。整った顔立ちは「綺麗系」と呼ぶにふさわしい。だが、ふっと笑った瞬間、その表情は一転して愛らしくなる。

俺が今まで関わってこなかった、まるでタイプではない子。なのに彼女から目が離せなくなった。


その日のうちに、俺は自分が風俗店で働いていることを打ち明けた。

本来なら他店の子をスカウトし、店へ引き抜くのが俺の役目だ。

『めちゃくちゃ売れそうなんだよなぁ…でもなぁ』

俺は彼女に少し惹かれていた。


「私はどっちでもいいよ。」

彼女の本気なのかわからない発言もスカウトするか悩む要素の一つだった。

その場、話を合わせているだけかもしれない。


その日は連絡先も交換できず終わってしまったが、別れ際、彼女がこちらを見て「ありがとう。」と微笑んできた。


その笑顔に完全に射抜かれてしまった。


翌週、彼女のシフトを確認して、予約を入れる。

その時はただ、客として。ただ会いたいから予約を入れるという思いだった。


会ってみるとやはり可愛い。可愛すぎる。

だが、このまま客として通うわけにはいかないほどの逸材だと確信していた。


——三回目の指名。

ついに俺は決心して彼女に告げた。


「……うちの店に来てほしい。」


驚いたように目を丸くした彼女は、すぐに柔らかく笑って「わかったよ。」と答えた。


───


入店して1週間ほどは、指名の電話の鳴りは悪かった。

彼女は必ず売れるはず。急ながらプロフィールの文章も作り込んだ。手抜きは一切ない。

だが売れる気配がない。


実物を見ればわかる。

この子は売れるはずなんだ。


悩んだ末に行き着いた結論は写真を変えることだった。

今のままでも十分に可愛かったが、魅力が伝わりきれていない可能性は感じていた。

俺は衣装を買い込み、彼女を何度も撮影し直した。

何度もシャッターを切り、ようやく“自然体の綺麗さ”と“笑うと可愛い”——その両方を収めた一枚に辿り着いた。


「……いける。」


写真を差し替えた翌日から、予想通りではあるが、嘘のように彼女の指名は急増した。

俺は胸をなで下ろした。やはり、自分の目に狂いはなかった。


けれど同時に、胸の奥にざらつく感情が芽生えた。

彼女が他の男に笑顔を向け、抱かれていく。

売れるということはその機会が増えるということ。 そうしたのは俺自身だというのに。


安堵と嫉妬、その二つが心の中でせめぎ合っていた。


───


仁美をスカウトし、写真を撮り直してからというもの、彼女は過去に見たことがないほど売れ続けた。

予約はすぐに埋まり、半年間完売し続けたのだ。

彼女は日記が得意ではないので日に1本あげればいいほうだ。

それなのにこの完売ぶりは自分で仕掛けておいても異常だった。

だが俺は確信した——やはり自分の目に狂いはなかった。


最高とは裏腹に彼女への想いは次第に抑えられなくなっていった。


ある夜、いつものように仕事を終えた彼女を送っていると

「家連れてかれるのかと思った。」

と冗談なのか本気なのかわからない発言をされ、俺は理性が飛んだ。


『マジで連れてくよ?』


彼女は黙ったままだ。

拒否しないなら…

そう思い、家に車を走らせて彼女を家に上がらせた。


「なにもないねー」

うちは寝るだけのためのスペースで何もない。

だが、昔買ったPS5だけはあった。


「テトリスしたい。」

彼女はテトリスにハマっていた。

彼女を家に呼ぶ口実の為だけに用意したテトリス。

本当にこの為だけに来てくれたのかもしれない。


二人でゲームを楽しみ、幸せな時間を過ごすが、

いつまでも熱中する彼女に痺れを切らし、俺はゲームを付けっぱなしのまま中断して、無理やり彼女を押し倒した。


正式に付き合おうという言葉を交わしたわけではない。

それでも、彼女は俺に「好きだよ」「愛してる」と甘い言葉を囁いた。

その瞬間、俺はすべてが上手くいくのだと信じて疑わなかった。


だが現実はそう甘くはなかった。


人気が出れば出るほど、悪質な客も増える。

仁美は時折、本番を強要されそうになり、トラブルに巻き込まれることが週に一度以上の頻度で起きるようになった。

そのたびに俺は駆けつけ、担当として的確に処理してきた。

けれど、いくら解決してもまた新しい問題が起きる。


「仕方ないよ。そういう仕事だから。」

仁美はいつもそう言って笑う。


その言葉が俺を苛立たせた。

俺が嫌なのだ。だが当の本人が諦めたように「仕方ない」と言い切る。その態度がどうしても許せなかった。


苛立ちは次第に彼女自身へと向かっていった。

トラブルだけではない。


——彼女はあまり連絡が取れない。


愛してると言うわりには、返信が急に途絶えることがある。

既読すらつかず、数時間後に「寝てた」とだけ返ってくる。

会えば笑顔を向け、愛の言葉を囁く。

だがスマホの向こうの彼女は、俺の存在を忘れたかのように沈黙するのだ。


疑念は日に日に募っていった。

本当に寝ていたのか? 他の誰かと過ごしていたんじゃないのか?

彼女の「自然体な魅力」は、裏を返せば無防備さでもある。

そしてその無防備さが、俺の心を締め付けていった。


愛と嫉妬、信頼と疑い。

その狭間で、俺は静かに蝕まれていった。


それでも俺たちは、多少の喧嘩をしながらも仲良く過ごしていた。

彼女の笑顔や仕草に癒され、愛の言葉に溺れ、疑念を無理やり押し込めていた。

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