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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
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2時限目:未完成の理論と、闇の魔法開発競争

模倣された理論の違和感

「沈黙の劇場」での闇取引阻止から二日後。レオンは、学院地下にあるイグニスの臨時研究室にいた。回収し、焼き尽くした羊皮紙の残滓――マナの痕跡だけが残った闇魔法の設計図を、レオンとイグニスは共同で解析していた。

 

「見てみろ、イグニス。この『虚無浸食』の改良型レシピは、確かに私の**『最終定理』**の構造を忠実に再現しているように見える」

 

レオンは、解析台に映し出された複雑なマナの軌跡図を指差した。

 

「しかし、おかしい。マナ収束の核となる**第7相連環フェイズ・セブン・リンク**が、理論上最も効率の悪い、不自然な形で組まれている。これでは、完全版の出力には到底及ばない」

 

イグニスは顎をなで、自身が解析したデータを重ね合わせて見せた。

 

「同感だ。私の解析では、今回の『マナ枯渇』の術式もそうだ。レオン、貴様の理論では、枯渇させたマナを圧縮する際、**『逆相転移リバース・トランジション』を用いるはずだが、奴らは単純な『多層圧縮マルチレイヤー・コンプレッション』**を使っている」

 

レオンは苛立ちを隠せない。

 

「それは、私が大学の基礎魔力学で**『非効率的』**として却下した手法だ。まるで、私の教科書の一部を読んで、不完全に模倣したような代物だ」

 

実験場となった王都

その時、アストレイアが静かに研究室に入ってきた。彼女は二人の解析結果をちらりと見て、厳しい表情を浮かべる。

 

「その『不完全さ』こそが、彼らの真の目的なのかもしれません、レオン先生」

 

「どういう意味だ、聖女殿?」レオンは顔を上げた。

 

「警備隊の裏調査で判明しました。『深淵の灯』は、闇魔法のレシピを売りさばくことよりも、新たな魔法体系の完成を最優先にしている疑いがあります。彼らは、貴方の『最終定理』を参考に、別の目的のための魔法を開発中なのです」

 

アストレイアの言葉に、レオンとイグニスは息を呑んだ。

 

「つまり、闇組織は、王都で事件を起こすたびにレシピを改良し、王都全体を、**未完成の理論を完成させるための大規模な『実験場』**にしているというのか?」イグニスが怒りに声を震わせた。

 

レオンの顔は蒼白になった。彼が最も危惧していたのは、自分の作ったレシピが悪用されることだった。しかし、現実はさらに悪質だった。

 

「私の理論を、中途半端に真似て、そして完成させるために、王都でテロを起こしている…!」

 

レオンは、自分の生み出した研究が悪意によって汚されていることに、発明者としてのプライドを深く傷つけられた。それは、単なるレシピ抹消という「面倒」を超えた、科学者としての激しい憤りだった。

 

究極の「面倒」:開発競争の終結

アストレイアは静かに続けた。

 

「レシピが未完成である以上、彼らが求める**『究極の術式』はまだどこかに存在します。それは、貴方の理論を凌駕するか、あるいは貴方の理論からしか生まれないものかもしれません。裏の世界では、この術式を巡る『闇の魔法開発競争』**が勃発しています」

 

レオンは、鉄剣を握りしめた。レシピの回収・抹消という「黒歴史の尻拭い」から、一転して、自分の理論を悪用する開発競争そのものを止めるという、さらに面倒で厄介な事態に巻き込まれてしまった。

 

「ああ、分かった、分かった。面倒極まりない。闇組織間の抗争など、私には関係のないことだと思っていたが…」

 

レオンは、深く、深くため息をついた。

 

「私の理論を不完全に模倣し、王都を実験場にするなど、講師としての教育方針にも反する。基礎がなっていない。…仕方ない。レシピの抹消と並行して、その未完成の術式、そしてそれを開発している傲慢な理論家の特定と、開発競争の終結も、私が嫌々ながら担当してやろう」

 

「雷鳴の剣」は、自分の理論を冒涜する存在に対し、発明者としての、そして教育者としての、静かな怒りの炎を燃やし始めたのだった。

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