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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
21/32

1時限目: 不機嫌な貴族令嬢と、聖女の懺悔



 

 

1.リリアーナの視線と、聖女への問い

レオンの研究室。レオンは霍乱の**「無限の論理」の論文を睨みつけ、カイトと不機嫌な共同研究に没頭していた。その隅で療養中のリリアーナ・ヴェルトは、研究室の一角に設けられた簡易ベッドの横に静かに座るアストレイア・エリュシオンを、苛立ちと好奇心がないまぜになった視線で見つめていた。

 

「聖女殿」リリアーナは、抑揚のない冷たい声でアストレイアに問いかけた。「なぜ貴方は、レオン講師殿のような『安寧』という非合理な概念に囚われた人物の側にいるのですか?そして、なぜ彼を『先生』と呼ぶのですか?貴方の高貴な血筋と霊的な力は、彼のような『黒歴史』を持つ者とは釣り合わない」

 

リリアーナは、レオンとアストレイアの関係が、単なる「監視役と被監視者」という契約だけではない、個人的な繋がりを帯びていることを、鋭く感じ取っていた。

 

2.アストレイアの回想:七年前の誓い

アストレイアは、静かに目を閉じ、七年前の悲劇の夜を思い起こした。

 

「リリアーナ様。私の役目は、闇のレシピの拡散を防ぐこと。そして、彼の『最終定理』の暴走**から世界を守ることです。しかし…」

 

アストレイアは、静かに話し始めた。七年前、レオンが自らの理論を暴走させたことで、王都が危機に瀕した夜。

 

「あの夜、私は神殿の聖女として、彼の理論を打ち消すための術式を発動しました。しかし、彼のマナはあまりにも純粋で、強大でした。私が術式を完成させる直前、彼は自ら**『雷鳴の剣』を自らの術式の核に突き刺し、全てを封印したのです」

 

「彼は、世界を救う力を持ちながら、その力を使うこと、そしてその力が引き起こす『面倒』を恐れ、『安寧』という名の孤独を選びました。彼は、その責任を全て背負い、『英雄』という称号と、彼の理論の全てを、自ら葬り去ったのです」

 

アストレイアの瞳に、わずかな涙が滲んだ。

 

「私は、彼の『自己犠牲』を理解できませんでした。英雄として、理論を完成させるべきだと信じていました。しかし、彼は、私が聖女として『世界を救う』ことよりも、『一人の人間として、安寧を求める』道を選んだ。その不器用で、非合理な『人間性』に…私は心を打たれたのです」

 

3.聖女の誓いと、理論家の理解

アストレイアは、レオンとの関係を静かに締めくくった。

 

「私は、彼に『安寧』を与えられなかった。だから、今は彼の側にいます。彼の『最終定理』の完成が、再び世界を脅かす時、私は彼を『英雄』ではなく、『レオン・アークライト』という一人の人間として、彼の理論の暴走から守る。それが、七年前、彼に『先生』として教えを請うた私の、個人的な誓いなのです」

 

リリアーナは、初めてレオンの方に目をやった。レオンは相変わらず不機嫌な顔で霍乱の論文を睨みつけている。

 

(リリアーナ内心):「安寧のための封印…理論を完成させることよりも、孤独な『安寧』を選ぶとは…。非合理的極まりない。しかし、その非合理性こそが、彼の理論の『普遍性』を維持しているというのか…?」

 

リリアーナは、レオンの「安寧」という理論的欠陥が、実は彼の「人間性」の核であり、「理論の最終防護壁」**であることを、聖女の回想を通じて初めて理解し始めた。彼女の不機嫌な表情は、わずかに、しかし確実に変化していた。

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