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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
18/32

7時限目: 不機嫌な理論家たちと、冷めた紅茶



 

1.研究室の不協和音

事件から数日後。王都魔法学院のレオンの研究室は、非常に不機嫌な空気で満たされていた。

リリアーナ・ヴェルトは、アストレイアの付き添いのもと、レオンの研究室で療養を兼ねた事情聴取を受けていた。彼女は白い包帯を巻いた腕を組み、窓の外を見つめながら、終始ふくれっ面だった。

カイト・アステルは、レオンの指示により、部屋の隅の簡素な机で読書をしていたが、その視線は常にリリアーナの背中に向けられている。

レオンはいつものように、冷めた紅茶を一口啜り、山積みの報告書に目を落としていたが、この面倒な状況を打開するため、二人の生徒に声をかけた。

 

「リリアーナ君。君の理論は、**『血筋依存』という最も非合理な要素を根幹に据えていた。事実、理論は暴走し、君の命を危険に晒した。私の『基礎』**は、それを証明した」

 

リリアーナは、レオンの方を一瞥もせず、不機嫌に答えた。

 

「あなたの理論は、結果論でしかありません、講師殿。暴走したのは、私が**『連環安定化要素』を確立する前に、外部から邪魔が入ったからです。私の『光と闇の調和理論』は、世界の安寧をあなたの『封印された定理』**よりも速くもたらす。私の理論は、決して間違っていません」

 

2.理論家同士の「吐き気」

リリアーナの強情な言葉に、黙っていたカイトが顔を上げ、嫌悪感を露わにした。

 

「吐き気がするよ、お嬢様」カイトは冷たく言った。「血筋などという、最も不確実で非効率な要素に理論の根幹を委ねるなど、理論家として恥を知るべきだ。僕の**『拡散理論』こそが、力を均等に分配し、安定化をもたらす唯一の『新しい基礎』**だ」

 

カイトは、リリアーナとは憎むべき敵ではあったが、**「理論の完成」**という一点において、彼女と同じ次元にいることを認めていた。だからこそ、その強情さが許せなかった。

 

「ふん。あなたの**『拡散理論』は、力の集中を否定する、最も軟弱な発想です。それに、あなたが私の理論を打ち消す一端を担ったレオン講師と『不本意ながら協力』**したことは知っていますよ」リリアーナはカイトを鋭く見返した。

 

「強情だね、お嬢様。だが、僕も自分の理論だけは曲げられない。君と同じように、僕の**『拡散』は、この世界を『安寧』へと導く。ただし、僕が君と同じような傲慢な結論**に至るとは、本当に嫌な気持ちにさせてくれるね。慰謝料を強請っても文句は言われないぐらいには同じくらいの頭痛に苛まれるよ」

 

二人の天才は、理論的な優位性を巡って互いに嫌悪感を露わにしたが、その目は互いの理論を深く理解し、尊敬の念すら滲ませていた。

 

3.講師の面倒な物思い

レオンは、生徒たちの論争を遮ることなく、最後の冷めた紅茶を飲み干した。

 

「全く、面倒だ」レオンはいつもの口癖を吐き出し、報告書から視線を外して窓の外を見つめた。

 

リリアーナの「光と闇の調和理論」は、自分の**『最終定理』の「理想形」を求めていた。カイトの「拡散理論」は、自分の『最終定理』の「安全弁」を示していた。そして、ルシアンの言葉は、自分の『最終定理』を「完成させろ」**と迫っていた。

 

(レオン内心):「安寧を求めて封印した私の理論が、三方向から、最も面倒な形で私の元へ押し戻されてくる。私の理論は、平和をもたらす**『基礎』なのか、それとも、この世界を再び混乱に陥れる『黒歴史』**の完成形なのか……」

 

レオンは、研究室の机の上に置かれた「集中・拡散融合理論」の設計図を静かに見つめた。彼は、もはや教師として、研究者として、**『理論の完成』**という、最も困難で、最も面倒な道に進まざるを得ないことを悟っていた。

 

「さあ、カイト。リリアーナ君。君たちの面倒な理論の続きは、また後でやれ。今は、報告書の続きだ。私の安寧のためにも、もう二度と私的な理論戦を起こすな」

 

レオンは、不本意ながらも、**「理論家」**として覚悟を決めた、新しい日常を歩み始めた。

 

この後日談は、レオンが抱える新たな使命と、カイト、リリアーナとの複雑な関係性を描写できたかと思います。

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