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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
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6時限目: 集中と拡散、理論の強制分離



 

 

1.理論の最終衝突:集中・拡散融合理論

王族旧書庫。ルシアンの**「光と闇の共存魔法」に追い詰められたアリオスの背後で、レオンは「集中・拡散融合理論(コンセントレーション・ディフュージョン・フュージョン)」を込めた鉄剣を構えた。

 

「貴様の傲慢な理論は、私の最も面倒で、そして最も非効率な教え子の力で打ち砕いてやる!」

 

レオンが放った一撃は、派手な雷光ではなかった。それは、レオンの『集中』によって極限まで圧縮された「理論の核」を、カイトの『多層拡散』が包み込み、ルシアンの術式へと静かに浸透していく波動だった。

 

ルシアンの「光と闇の共存」は、術者自身の血筋に依存する不安定な土台の上に成り立っていた。レオンの融合理論は、その土台を狙い、光と闇を強制的かつ原子レベルで分離させることを目的としていた。

 

ルシアンの術式に浸透した途端、共存していたはずのマナが、互いに激しく反発し始めた。

 

「馬鹿な!私の『調和』が…なぜ、なぜ崩れる!」ルシアンは絶叫した。

 

ルシアンの肉体から、光のマナと闇のマナが、制御不能な二つの力となって噴き出し、彼の周囲の旧書庫を内部から破壊し始めた。ルシアンの理論は、レオンの「集中」とカイトの「拡散」という、相反する二つの基礎理論によって、その理論の根幹を否定されたのだ。

 

2.理論家の敗北と、第三の英雄の目的

ルシアンはマナの暴走によって床に叩きつけられた。その隙を逃さず、アリオスは鋼の剣でルシアンの動きを封じた。

 

「観念しろ、ルシアン!お前は七年前の悲劇の真の黒幕、第三の英雄の共犯者だ!」

 

ルシアンは血を吐きながら、嘲笑った。

 

「共犯者…違いますよ、騎士団長。我々の目的は、英雄の理論の完成です。七年前、レオン・アークライトは、『最終定理』の完成を目前に、その理論を『安寧』のために封印した。第三の英雄は、その傲慢な『封印』を許せなかったのです!」

 

ルシアンは、レオンの理論こそが、世界に究極の「安寧」をもたらす鍵であり、その封印こそが「罪」であると主張した。彼の背後には、「七年間、レオンの理論の完成を待っていた」第三の英雄の影がちらついた。

 

アリオスがルシアンを完全に拘束しようとした瞬間、ルシアンの身体から最後の闇のマナが爆発し、ルシアンは煙のように旧書庫から姿を消した。それは、彼が「第三の英雄」から託された、理論家特有の緊急脱出術式だった。

 

「チッ!逃がしたか!」アリオスは悔しさに奥歯を噛んだ。

 

3.事後処理と、レオンの新たな安寧

事件は収束した。特級学院は王族貴族の間で大混乱に陥り、ルシアンが所属していた「禁断理論研究会」は壊滅。暴走したリリアーナは、アストレイアの聖なるマナによって一命を取り留め、王族の庇護の下で厳重な監視下に置かれることになった。

 

数日後、王都魔法学院の研究室。レオンの特級学院への強制異動は、事件の混乱を理由に「一旦、保留」という形で、事実上解除された。

 

「結局、安寧は一時的に回復したか…面倒な騒動だった」

 

レオンが冷えた紅茶を啜っていると、カイトが隔離研究棟から連れてこられた。カイトの特別矯正プログラムは、「事件の真相解明に協力した」として、引き続きレオンの監督下で行われることが決まった。

 

「カイト。君の『拡散理論』は、確かに役に立った。理論家としてのプライドを不本意ながら認める。君の矯正プログラムは、私の研究室で行う」

 

「…先生の理論が、『理論の盾』として機能した。私も不本意ながら、認めます」

 

カイトは、レオンの「安寧」という理論が、世界を救う力を持つことを理解した。

 

アリオスは、事件の報告書をレオンに突きつけた。「借り、一つ返したぞ。貴様の『黒歴史』は、まだ終わってはいない。第三の英雄は、貴様の『最終定理』の完成を望んでいる。その理論こそが、真の黒幕を炙り出す鍵だ」

 

レオンは、机の上に置かれた「集中・拡散融合理論」の設計図を眺め、ため息をついた。

 

「チッ。安寧を望んだはずが、結局は『理論の完成』という、最も面倒な道へと追い込まれたか」

 

レオンは、自分の「黒歴史」の清算と、真の安寧を得るため、かつて封印した『最終定理』の研究を、カイトの「拡散理論」を取り込んだ新たな基礎理論として、不本意ながら再開することを決意した。彼の『魔法教師の不本意な英雄譚』は、第二部の終わりを告げ、「理論の完成」**という、より大きな使命を背負う。

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