5時限目: 不本意な融合、決戦は旧書庫で
1.隔離研究棟:理論家たちの「強制融合」
王立特級魔術学院の隔離研究棟。レオンは、足枷を嵌めたカイトの前に立ち、**「第三の英雄」**の理論を打ち破るための、最も嫌で、最も非合理な提案を突きつけた。
「カイト!君の**『多層拡散』の理論が必要だ。私の『集中術式』を、君の拡散理論で包み込む。奴の『光と闇の共存』を、『破壊と無力化の強制分離』**に変換する、対・第三の英雄専用の理論を今すぐ設計するぞ!」
カイトは激しく抵抗した。「馬鹿な!先生は私の理論を**『非効率な雑学』**と否定した!今さら、自分の理論を打ち破るために、私を利用するのですか!」
「そうだ、利用する!」レオンは声を荒げた。「これは私の安寧と理論を守るためだ!君のくだらない正義感などどうでもいい!私の理論を弄び、私の平穏を乱す傲慢な理論家を許せない!奴に敗北すれば、私の人生は、さらなる面倒に支配される!」
レオンの、私的で個人的な理由を剥き出しにした激しい言葉は、カイトの心の奥底に響いた。それは、レオンの理論家としての**「プライドの叫び」**だった。
「…分かりました」カイトは静かに頷いた。「先生の**『集中』**が負けるのは、理論家として許せない。私の理論が、あなたの理論を上回る証明にならなくとも、貴方の理論の盾にはなって差し上げます!」
二人の天才は、机を挟んで向き合い、隔離研究棟の薄暗い空間で、時間との戦いの中で**「集中・拡散融合理論(コンセントレーション・ディフュージョン・フュージョン)」**の設計に没頭した。
同時に、レオンは鉄剣にマナを収束させ、アリオスへ極秘のマナ通信を送った。
「アリオス!融合術式の完成まで、あと十分だ!旧書庫の術式の中枢を破壊するな!奴らを、ただ足止めしろ!」
2.旧書庫:鋼の騎士の死守
王立特級魔術学院の王族旧書庫。アリオス率いる警備隊は、ここで黒幕である王族直系の貴族、ルシアンと対峙していた。ルシアンの背後には、七年前の悲劇でレオンの剣が突き刺さった場所を彷彿とさせる、古代の紋章が輝いていた。
「遅いですよ、騎士団長」ルシアンは優雅に微笑んだ。「君たちの英雄は、今、自分の理論の敗北に怯えている。貴様たち二人を、七年前と同じ、絶望的な敗北へと誘ってあげよう」
ルシアンは、**「光と闇を共存させた魔法」**を放った。それは、防御をすり抜け、内側からマナを汚染する、騎士の鋼の鎧をも無力化する禁断の力だった。警備隊員が次々と倒れ、アリオスは孤立無援となった。
「貴様は七年前、レオンを裏切って生き残った。その罪悪感が、貴様を動かしているのだろう?」ルシアンは言葉でアリオスの精神を攻撃する。
しかし、アリオスは踏みとどまった。彼の心には、レオンに救われた借り、そして**「黒歴史」の真の黒幕を許さない**という騎士の誇りがあった。
「私はレオンに借りを返す!そして、貴様のような卑怯な理論家の手で、王都を実験場にはさせん!」
アリオスは、レオンからの「中枢を破壊するな」という指示を守り、ただひたすらに時間稼ぎの防戦に徹した。鋼の剣を盾にし、ルシアンの強大な魔法を中枢から逸らし続ける。それは、理論も派手さもない、純粋な**「騎士の意地」**だった。
3.不本意な融合、決戦は旧書庫で
隔離研究棟。レオンとカイトの設計図が、**「集中」と「拡散」の矛盾を乗り越え、ついに完成した。術式は、第三の理論家の「光と闇の共存」理論をピンポイントで「強制分離」**させ、術者の制御から解放させることを目的としていた。
「できたぞ、カイト!君の拡散理論が、この融合を可能にした。君の理論は非効率だが、唯一無二だった」レオンは、カイトの貢献を不本意ながら認めた。
「私の理論が先生の役に立ったのなら、それ以上は望みません」カイトは静かに微笑んだ。
レオンは、融合術式を収束させた鉄剣を握りしめ、カイトに指示した。「私は行く。君はここにいろ。そして、君の理論の全てを、この剣に注ぎ続けろ!」
レオンは雷光となって、旧書庫へ急行した。
旧書庫では、アリオスが限界を迎え、ルシアンの光と闇の魔法が、その鋼の鎧を打ち砕こうとしていた。
その瞬間、ルシアンの背後で、雷光が閃いた。
「遅いぞ、レオン!」アリオスが呻いた。
レオンは、ルシアンに向け、融合術式を収束させた剣を構えた。彼の顔には、教師としての責務、発明者としての怒り、そして教え子の力を借りる屈辱が混ざり合っていた。
「貴様の傲慢な理論は、私の最も面倒で、そして最も非効率な教え子の力で打ち砕いてやる!」
レオンは、**「集中」と「拡散」という矛盾した力が融合した、対・第三の英雄専用の理論を込めた一撃を、ルシアンに向けて放った。ここに、レオンの「黒歴史」**の真の根源を巡る、最終理論戦が幕を開けた。




