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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
12/32

1時限目: 特級学院の冷笑と、第三の英雄の影



 

1.貴族の城塞と、講師の摩擦

王立特級魔術学院。それは、王都魔法学院とは一線を画す、王族直系の貴族と、その血筋に連なる者だけが入学を許される、壮麗な魔術の城塞だった。

レオンは、学院側が手配した豪華絢爛な馬車を「面倒だ」と一蹴し、いつものボロボロの研究着と、鞘に収めた鉄剣を携え、徒歩で学院の巨大な門に辿り着いた。

 

「止め!身分を名乗れ」

 

門番は、レオンの姿を見るや否や、明らかに侮蔑の眼差しを向けた。

 

「私は今日から特別講師を務めるレオンだ。通せ」

 

「無礼な!馬車を持たず、そのような粗末な服装で特級学院の敷居を跨ぐなど言語道断!身分証明書と、講師としての辞令を見せろ!」

 

レオンの顔に、早速「面倒だ」という感情が色濃く浮かんだ。彼は懐から辞令を乱暴に取り出し、門番に押し付けた。

 

「チッ、貴族社会のしきたりなど、私の安寧に何の貢献もない。馬鹿馬鹿しい」

 

門をくぐり、豪華な校舎に迎え入れられたレオンを待っていたのは、学院長と、王族直系の講師団だった。

 

「ようこそ、レオン講師殿」学院長は、レオンの鉄剣と研究着を露骨に見下しながら、傲慢な笑みを浮かべた。「あなたの『基礎魔力操作学』は、我々特級学院の学生にとっては古びた雑学に過ぎません。せいぜい、**『理論の歴史』**として、学生たちの退屈を誘わぬよう努めることですな」

 

彼らは、レオンの専門分野を完全に侮辱した。レオンはただ一言、吐き捨てた。

 

「私の基礎理論が、君たちの傲慢な実践よりも優れていることを、いずれ証明してやる。校長室の場所は?」

 

2.隔離された教え子と、闇の皮肉

レオンの最初の任務は、捕らえられた教え子、カイトの元を訪れることだった。カイトの特別研究矯正プログラムが実施されるのは、学院の敷地の隅に立つ、古びた**「隔離特別研究棟」**。文字通り、闇の理論を隔離するための場所だった。

特別棟の厳重な結界を通過し、レオンがカイトの部屋に入ると、カイトは研究台の前で静かに待っていた。彼の足首には、魔力反応を抑える特殊な足枷が嵌められていた。

 

「先生。おめでとうございます」カイトは顔を上げ、皮肉な笑みを浮かべた。

「これで貴方は、真の闇に監視されましたね。特級学院は、貴方が守ろうとした王都魔法学院とは比べ物にならない。ここは、七年前の悲劇の真の黒幕の牙城です」

 

「黙れ、カイト。君の面倒な正義感が、私と君をこの場所へ連れてきた」レオンは冷たく言った。「矯正プログラムの目的は、君の傲慢な理論を叩き直し、私の安寧を回復させることだ。協力しろ」

 

「ええ、喜んで。先生の指導(=監視)の下、私はこの牙城の理論を学ばせていただきます」

 

レオンはカイトの監視と教育という、最も手がかかる面倒な日常から、この特級学院での生活をスタートさせた。

 

3.特級学院の冷笑と、最小限の雷光

特級学院での最初の「基礎魔力操作学」の講義。教室は、強大な魔力と傲慢な自尊心に満ちた貴族の生徒たちで溢れていた。

レオンが教科書の最初のページを開き、マナ収束の基本を説き始めると、最前列の一人の生徒が、嘲笑を込めて手を挙げた。彼は王族直系の一族の御曹司、ザイガスといった。

 

「レオン講師殿。その初歩的な内容は、我々が五歳で習得済みです。我々が知りたいのは、古代理論の応用や、魔力融合の最先端です。あなたの理論は古びた雑学でしかありません」

 

ザイガスの言葉に、教室全体から冷笑が漏れた。

レオンは教卓に鉄剣を置き、静かにザイガスを見据えた。

 

「君たちは、基礎を軽視する傲慢な理論のせいで、カイトのような犯罪者を生み出す。真の力とは、派手な出力ではない」

 

レオンは、ザイガスが使用しているマナ安定化の装飾品に、人差し指一本から、極小の雷光を放った。

 

パチッという微かな音と共に、ザイガスの装飾品は、表面の魔力回路が瞬時に焼き切られ、沈黙した。

 

「今、君が使っていた魔力安定の術式は、**『0.003秒の起動遅延』を内包していた。私は、その遅延の間に、最小の魔力でその術式を無力化した。これが『基礎魔力操作学』**の極致だ。君たちの傲慢な応用理論では、この領域には到達できない。次、発言する者は、この基礎に勝る証明を持ってこい」

 

教室の冷笑は、一瞬にして静寂に変わった。レオンは、最小限の労力で、傲慢な教え子たちに**「教師」としての洗礼**を与えた。

 

4.第三の挑戦状

講義が終わり、生徒たちが慌ただしく退室した後。レオンは教卓の上の教科書を片付けようとして、手が止まった。

そこには、彼の教科書の最後のページが切り取られ、その白い余白に、見覚えのないマナの理論図が、墨のような闇のマナで描き込まれていた。

それは、レオンの**「最終定理」の構造を基にしながらも、カイトの「拡散の力」とは全く異なり、「光」と「闇」を共存させ、一つの究極的な「力」を生み出す**という、冷徹で完成度の高い理論の断片だった。

その術式の構造は、七年前の悲劇で、レオンに全ての罪を負わせた第三の英雄が研究していた**「禁断の理論」**と、酷似していた。

レオンの顔から血の気が引いた。

 

(レオン内心):「カイトではない。これは、私の理論を理解し、私に挑戦している、第三の理論家の手によるものだ。最も面倒な真の黒幕は、この学院、私の最も身近な教壇にまで足を踏み入れている……!」

 

レオンは、新たな挑戦状を握りしめ、ため息をついた。王立特級魔術学院への異動は、彼の**「黒歴史」**の清算を終わらせるのではなく、真の黒幕との、最も面倒な理論戦争の始まりを意味していたのだった。

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