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魔法教師の不本意な英雄譚  作者: 南賀 赤井
10/32

補習: 黒歴史の残滓と、講師の不本意な再開



 

1.事後処理と、新たな関係性の構築

貴族街の事件は、レオンの活躍とアストレイアの協力により、表向きは「警備隊の迅速な対応による事故の未然防止」として収束した。カイトは闇魔法使用とテロ未遂の容疑で捕縛され、失踪していた貴族令嬢の記録は押収された。

 

数日後、学院の研究室。レオンが机上で冷えた紅茶を啜っていると、アリオス・クレメンスが、以前のような苛立ちではなく、重い面持ちで現れた。

 

「レオン。カイトの供述と、令嬢の研究記録を照合した。七年前の**『三英雄の悲劇』**。貴様が、全ての責任を負う必要はなかったことが、確認された」

アリオスは、静かに頭を下げた。

 

「貴様を侮ったこと、私情で警備を乱したこと、そして七年間、貴様の罪を疑っていたこと――全て謝罪する」

 

レオンは表情を変えなかった。

 

「面倒だ。謝罪など不要だ、アリオス。過去は過去だ」

 

アリオスは顔を上げた。その目には、過去のわだかまりが消えた、新しい決意が宿っていた。

 

「分かった。貴様を許したわけではない。そして、貴様が**『最小の労力』という信条に反して私と隊員を救った借りはできた**。カイトの供述から、真の黒幕は、未だ王都中枢にいる王族直系の貴族と、行方をくらました第三の英雄であることは確実だ」

 

アリオスは静かに敬礼した。「私は、警備隊内部で水面下から**『黒歴史』の真実を追う。貴様の理論と知識**が必要な時が来たら、また声をかける。その時、貴様が講師業を理由に逃げるなよ」

 

「チッ、面倒極まりない」レオンは鼻を鳴らした。

 

2.聖女の誓いと、理論の守護者

アリオスが去った直後、扉の前にはアストレイアが立っていた。彼女はレオンの目をまっすぐに見つめた。

 

「レオン先生。貴方は真実を目の前にしながら、それを拒絶し、術式の破壊だけを選んだ。自分の罪と、悲劇の真実から、目を背け続けた」

 

「それが私の安寧だ、聖女殿。君の非合理な感情論に付き合う気はない」

 

「今度は、そうはさせません」アストレイアは静かに決意を固めた。「私は、あなたの監視役として残ります。しかし、その目的は変わる。私は、『闇の真実』を暴き出すことから、あなたを守る。あなたが本当に安寧を得るまで、私はここにいます」

 

アストレイアの言葉は、レオンが背負った重い十字架を、彼女も共に背負うという、個人的で静かな誓いだった。

 

3.第二部への序曲:安寧の終わり

夜。研究室にはレオン一人だけ。冷めた紅茶を一口飲み、レオンは机の引き出しから、カイトが残した貴族令嬢の研究記録の断片を取り出した。

 

(レオン独白):「せっかく安寧を取り戻したのに、今度は王族と第三の英雄か…本当に面倒極まりない」

 

カイトが暴こうとした真実を、レオンは破壊し、隠蔽した。それは安寧のためであると同時に、真実が公になることで生じる、さらに巨大な混乱を恐れたからだ。

 

しかし、レオンが破壊した「虚無浸食」の術式の残滓は、闇の真の黒幕たちに**「レオンの最終定理がまだ存在し、それが脅威である」**という確信を与えてしまった。

 

レオンの安寧を乱すため、そして**「最終定理」の真の所有権を確立するため、彼らはレオンが最も守りたい場所、王都魔法学院、そしてレオンが生きる意味としている「基礎魔力操作学」の理論そのもの**を狙い始める。

レオンは、研究記録の断片を、自分の教科書の一番奥に挟み込んだ。

 

「仕方ない。私の理論を、これ以上汚させるわけにはいかない」

 

講師の椅子から立ち上がったレオンの目には、再び、教え子たちと、自分の築き上げた基礎理論を守るという、新たな「不本意な英雄」としての覚悟が静かに宿っていた。

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