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養子からの質問

契約結婚をして、夫が妻を愛したいと手のひらを返すが拒否される――その後の話です。

「お義母さまはお義父さまがお嫌いなのですか?」

 養子になってから二年目の少年クリスは、義母キャリーに問いかけた。


「どうしてそう思ったの?」

「食事も別々ですし、私室も階が違いますよね」


 クリスは義父ジャックと食事をとるが、そこにキャリーは来ない。

 当初から気になっていたが、義父に訊いたら悲しい顔をするだけで答えてくれなかった。

 二年かけて義母とお茶をできるまでに関係を築き、ようやく訊くことができたのだ。



「そういう契約ですから」

「ふえ?」

 思いも寄らない回答だったので、クリスは変な声を出してしまった



「旦那様とは契約結婚なのです。

 跡取りを作らない契約なので、あなたに養子に来てもらったのよ」

 にっこりと義母は微笑む。


「不妊だから養子をとったのでは……」

 つい言葉が口から出てしまい、これは不躾すぎると慌てて自分の手で口をふさいだ。


 二十代前半の、まだ若い義母は穏やかに問う。

「閨の教育はもう受けたのかしら?」

 クリスは口をふさいだまま、うなずく。


「そういう行為を一度もしていませんので、不妊かどうかわかりません」

「うええ?!」

「旦那様からのご提案ですから、疑問があったらあちらにお訊きなさい」


 涼しげに優雅に紅茶を口にする義母。

 美しく、気品の漂う彼女のどこが気に入らないのか、まったく理解不能だった。




 その日の夕食がすみ、義父に話す時間をもらった。

 義父の執務室に移動して、なぜ自分が養子になったのか思い切って訊いてみた。


 なんと。

 五年前に結婚したとき、義母は「男好きで淫乱だ」と噂を流されていたそうだ。

 それを真に受けた義父は初夜に「君と閨を共にするなど汚らわしい」と言い放ち、翌日お互いに干渉しない契約を交わしたとのこと。


「はええ?!」

 また、変な声が出た。馬鹿なのかという言葉は、かろうじて飲み込めた。


 親に押しつけられた政略結婚で反抗心がとか、それがお互いのためだと思ったとか言い訳を積み重ねる義父。

 いや、もう、聞けば聞くほど呆れてしまう。


 結婚当初、二十代半ばだった義父。

 親を説得することもできず、貴族の義務も理解せず、ただ反抗しただけ?

 結婚式を挙げてしまってから、年下の花嫁に我慢を強いた卑怯者。



「三年目に離婚すれば、よかったのに」

 そのための白い結婚だったのでは、と突っ込んだら、なんて答えが返ってきたと思う?


「そのころにはキャリーを愛してしまったんだよぉ」


「はぁ?! あんた馬鹿だろう」

 ついに言ってしまった。しかも、悪友たちといるときの口調で。



 そのとんでもない契約は、執事も協力して作っただと?

 暴挙を止めるとか、別荘暮らしの先代に報告するとか、被害を拡大させないための対処をしろよ!


 事情を知らない先代が「子どもはまだか」とうるさかったって……当たり前だろう。

 義母をいつか口説けたらいいなと思いながら、養子をもらうなんて、考えなしにもほどがある。



 義母は、養子をもらうのは当初の契約どおりって言っていたぞ。

 契約を変更して仲良くしようと申し出たんだってな。それも相当恥知らずだと思うけど。


 義父がそれを言い出したときは、「ちゃんと契約を守ってもらわないと困りますってやりこめたのよ」って、武勇伝みたいに自慢されたんだが?

 契約変更の望みはかなり薄いって、わかっているんだろうか。



 こんな家を継いで大丈夫か、心配になってきた……。


更生の余地なし。

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