四章 年に一度の完全休暇
同年、四月十日。
今日は四方の剣士団の総長が中央剣士団に集まる日だ。
中央剣士団は神護国中央華千﨑御所内にある剣士団を総括する組織である。
中央剣士団の総長は神護国の主である梨々香陛下。
そんな華千﨑御所は最も神聖な地と言われている。
とある事件から立ち入りは華千﨑家と親密な関係を持つ者と七陽の勇者以外禁止となり、七陽の勇者もこの時じゃないと原則入れない。
この日、総長以外の勇者は年に一度しかない完全休暇を楽しむ。
私はそんな完全休暇を利用して万象教北燦雪連総本部に来た。
万象教北燦雪連総本部には過去に存在したレムフィト国とレムフィト皇国の生活が体験できるエリアがあり、修学旅行でよく利用されている。
私が訪れたこの日も中等教育学校の学生たちが来ている。
「レムフィトの料理って美味しくないね」
「外の料理だって聞いて楽しみにしてたのに・・・」
フォークを握った中学生たちはレムフィト式海鮮トマトパスタを食べながら不服そうに文句を言う。
私は確かにな~と思いながらレムフィト式海鮮トマトパスタを食べ進める。
レムフィト式海鮮トマトパスタは砂糖が大量に入っていてかなり甘い。
そして、具材はこれでもかと焼かれていて硬い。
こればかりは少量であることが救いだと思った。
「無理して食べて体調崩すなよー?昔はこういう料理もあったのだと覚えれば良いんだからなー?」
中学校の先生は中学生たちを見てそう言った。
「仲谷中の修学旅行先は中央らしいよ」
「マジで~?うちも中央行きたかった~」
中学生たちは雑談しながらレムフィト式海鮮トマトパスタを食べる。
「・・・あの・・・」
空の皿を持ったソラは料理人を見てそう言った。
「はい」
料理人はソラを見て笑みながらそう言った。
「このパスタ、どうしてこんなに甘いんですか?」
ソラは空の皿を見せながらそう言った。
「当時はどの物資も貴重で砂糖なんかは金よりも貴重だったらしいんです」
「金よりも・・・」
ソラは少し驚きながらそう言った。
「そんな砂糖を使えば使うほど良い料理ができるだろう・・・と当時のレムフィト民は考えていたそうなのです」
「な、なるほど・・・」
ソラは苦笑いしながらそう言うと空の皿を見た。
「レムフィト皇国エリアに行くと美味しいものが食べられますので、あまり気を落とさないでくださいね」
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
ソラは料理人を見て笑みながらそう言うと、皿を返却口に帰した。
次に向かったレムフィト皇国エリアは、とにかく華やかで綺麗な場所だ。
ランタンには黄色の炎が灯っていて夜になると街灯にもこの黄色の炎が灯るとのこと。
そして、なんと!この黄色の炎はホムラと呼ばれてレムフィト皇国民に親しまれていた聖火を再現しているらしい!!
やっぱり梨々香陛下は昔から人々を護って来たんだ!
お昼になると再び食事を始めた。
レムフィト皇国エリアの食事は皇国第一貴族サン・リリナーゼ一族の伝統的な食事を基に作られている。
「お待たせいたしました」
給仕者はそう言いながら彩り豊かな少量の料理が乗った小皿が何種類も乗ったお盆を置いた。
「わお!」
ソラは彩り豊かな少量の料理が乗った小皿が何種類も乗ったお盆を見て楽しそうに笑みながらそう言った。
サン・リリナーゼ一族は北極アヴァンヘスク島の立華 綾香大祭司と関わりがあり、何度かアヴァンヘスク島の祭りに招待されていたようだ。
当時のサン・リリナーゼ家当主ファル・サン・リリナーゼはその際に食べた祭事の特別料理に感動してその祭事の特別料理に似た料理を料理人に作らせたという記録があるようだ。
「美味しい!」
料理を食べたソラは驚き笑みながらそう言った。
「すごくない!?」
「ラヴィ様みたいじゃない!?」
レムフィト皇国の伝統衣装を着た中学生たちは大はしゃぎしながら店に来た。
(なんかレムフィト皇国の文化って神護国の文化に似てる?)
ソラはレムフィト皇国の伝統衣装を着た中学生たちを見ながら料理を食べた。
レムフィト皇国の伝統衣装は着物と洋服を掛け合わせたような服だ。
厳しい寒さを凌ぐため生地は分厚く、裏地はもこもこしていて温かい。
私は料理を食べ終えると、レムフィト皇国の伝統衣装を借りに行った。
レムフィト皇国の伝統衣装は色々な色があってカラフルだ。
しかし、当時は赤、橙、黄、緑しかなかった。
青色などの寒色は遭難時に発見が遅れるため禁止されていたらしい。
私が選んだ色は黒色。
ラヴィ様が着る正衣に一番似ているからこれにした。
レムフィト皇国の伝統衣装を着た私はレムフィト皇国を模した町を歩きながら写真撮影をしてレムフィト皇国エリアを楽しんだ。
レムフィト皇国の伝統衣装を返し終えた私は中央部にある大聖堂に行った。
大聖堂の内部情報は非公開になっているため実際に訪れた客しかわからない。
大聖堂の内部に入るといつも驚く。そして、とても感動する。
北燦雪最大の教会は数十万人が入れるほど広く、突き当りの祭壇には歴代七陽の勇者を模した金の像が祀られている。
陽の光が差し込む大きなステンドグラスには梨々香陛下とラヴィ様が描かれている。
いつ見ても圧巻の光景だ。
ステンドグラスを見終えると長椅子に座って聖典の読み上げを聴き始めた。
しばらく読み上げを聴いていると、中学生たちに話しかけられた。
「烏輪の勇者様じゃないですか!?」
中学生はソラを見て笑みながらそう言った。
「あ、うん、そうだよ」
ソラは中学生を見て笑みながらそう言った。
「烏輪の勇者様に会えるなんて!!」
中学生は目を輝かせて笑みながらそう言った。
「烏輪の勇者様!?」
中学生たちはソラの所に集まり始めた。
「教会の人が困っちゃうからあまり騒がないようにね」
ソラは中学生たちを見て笑みながら優しくそう言った。
午後四時。
大聖堂内部を見終えたソラは高速列車に乗って剣士団に戻った。
剣士団では華千﨑御所から戻って来た師匠がソファーで休憩している。
「ただいま戻りました」
ソラはアイリアを見て笑みながらそう言った。
「おかえり~」
ぐったりとしたアイリアはソラを見てそう言った。
「会議どうでした?」
ソラはコートをハンガーにかけながらそう言った。
「魔甘は大陸北部にいるらしい。これから忙しくなるよ」
「大陸北部に居るんですか?大陸南部でしか痕跡見つかってないのに??」
ソラはアイリアを見て少し驚きながらそう言った。
「南煌炎に殿下が滞在し始めたから急いで移動したんだろうって陛下は予想してる」
アイリアはソラを見てそう言った。
「そんな早く移動できるなんて・・・」
ソラは電気ケトルに水を入れながらそう言った。
「淵地の力を使って移動したんだろうね」
「また移動しちゃわないですか?」
ソラはアイリアを見てそう言った。
「淵地に神気を充満させるなんて魅惑には無理な話だし、自然に任せて神気を溜めようと思っても五百年はかかるからもう移動は困難」
アイリアは天井を見てそう言った。
「七陽の勇者が相手なら負けないってあいつは考えてるんだ」
アイリアは悔しそうに言った。
中央剣士団から魅惑魔塊討伐の命令を受けた北方剣士団は、大陸北部の観測記録を確認するため総合調査拠点艦イクイノックスに乗艦する
次回
五章 総合調査拠点艦イクイノックス号へ