第17話『砦の守り火』10
「――っは!」
ノアの剣が槍兵の脇を切り裂く。だが、相手はひるまず、即座に突きで反撃する。
その槍は軽く、鋭く、まるで蛇のような軌道を描いてノアを追い詰めていた。
「やりにくいな……!」
ノアは地を蹴り、細い通路の壁すれすれに回避。背後に振り抜かれた槍が風を裂く音が聞こえる。
一方――ロークと敵隊長の斬り合いは激しさを増していた。
「ぐっ……!」
ロークの右剣が再びはじかれた。そのまま敵の剣が腕をかすめた。
「っ……! 浅い……まだいける!」
痛みを無理やり抑え、左手の短剣で敵の足を狙う。だが、敵隊長も一歩跳び退き、体勢を立て直す。
「ちっ……距離感が完璧だ」
敵隊長の目は獣のように研ぎ澄まされていた。油断も隙もない。
その圧力に、ロークの呼吸が荒くなっていく。
――そしてその刹那。
上階の建物から再び魔法の奔流が落ちてくる。
右からは火柱、左からは鋭い風の鎌。
「来ます! ――断流!」
「氷楔!」
ラシエルの水が火柱を相殺し、ルネの氷が風の鎌を凍らせて砕く。
魔法兵同士の攻防が続くなか、一つの戦局が動く。
「……っ! クラウス!!」
ミシッ、と盾に亀裂が走った。斧兵の斜めからの一撃が、クラウスの盾を割り、肩口に食い込む。
「くっ……、まだ動ける……!」
肩から血が流れるが、クラウスは盾の残骸を捨て、剣を両手に持ち直した。
僅かな一瞬。
その音の先を見た敵の槍兵。
戦っている相手がノア以外なら何の問題も無い行為だった。
視線を戻すと、今戦っていたノアの姿が消えていた。
「なっ…………」
ノアは一瞬の目の動きを見逃さなかった。
その刹那、大気に溶け込むように気配を消し、敵の死角へと体を滑り込ませた。
休暇中、ノアもひたすら訓練をしていたのだ。
リリアナにとっては寝ているように見えたその姿。
気配を消すという、斥候型の兵士以外には必要のないスキルを極限まで高めていた。
視界にいないばかりか、存在そのものを消し去ったかのような彼女の刃が槍兵の膝裏に突き込まれる。
「がっ……!」
槍兵がたまらず崩れ落ちる。ノアが息を切らしながら前を睨む。
「一人減った……けど、まだ……っ」
その時だった。敵の隊長が、再びロークに踏み込む。
「終わらせる……!」
剣が真っ直ぐに振り下ろされる。
ロークはそれを両手の剣で受け止め――火花を散らしながら、顔をしかめた。
「お前こそ、終わらせてやる……!」
全員が疲弊している。
ラシエルとルネも魔力を消耗しはじめ、援護のペースが落ちてきていた。
だが――
「こんなとこで負けてられねぇ……っ!」
ロークが気合とともに叫び、踏み込んだ。




