表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の紅蓮姫  作者: エル
フレスト砦編
81/247

第16話『燃ゆる前線へ』4

挿絵(By みてみん)




「こっちは王都からの補給部隊だ。……いったい、どうなってるんだ?」


馬車を引いてきた兵士たちが、困惑した表情で詰め寄ってくる。

その視線はリリアナ隊の誰か――いや、“リリアナ”に向けられていた。


民間人はすでに三百人近くまで増えている。

砦の中には泣き声と叫び声、逃げ遅れた者たちの混乱が満ちていた。


兵士が説明を求めてくる。誰かが答えようとしていた。

だがリリアナの耳には、その言葉が届かなかった。


彼女の視線は、砦の中に向いたまま――全く動かない。


この状況をどうする?

物資は? 民間人は? 補給部隊の兵士たちは?


責任。判断。結果。

一つの言葉が重く心にのしかかっていく。


「――っ」


指が震えそうになる。


その時だった。


「……おい、悩んでるのか?」


近くにいたロークが、ふっと口元を緩めながら声をかけた。


「お前はもう、ヴォルフと同格の“隊長”なんだぜ?」


「……え?」

リリアナは一瞬だけロークを見た。


「ヴォルフだったら――どうする? 今みたいな時」


その問いに、リリアナは再び前を向いた。

――ヴォルフなら、どうする。


きっと、誰よりも早く動いて、先頭に立って――

自信満々に「俺についてこい」と言って、全員を納得させる。


……そんなこと、自分にできるのか。


思考を巡らせる。


灰の砦はこの人数を迎えられない。


この場にいる全員が明日を迎えなきゃいけない。








「……やってみる」

リリアナは小さく息を吐いた。







「ここまでの道は、安全でしたか?」


王都兵の一人に訪ねる。


「……ああ。途中に敵影はなかった。砦が燃えてるのを見て急いだだけだ」


その一言が、リリアナの背中を押した。


「中央軍も、王都の方も、補給物資――全部、ここで下ろして」


「王都の兵士たちに、避難してきた民間人を預ける。王都まで全員連れてって。中央軍の補給部隊も協力して」


「えっ……でも、それって……!」

ミレイアが驚きの声を上げる。


「まだ砦の状況がわからない中で、勝手に避難誘導なんて――」

王都の兵士も戸惑いの表情を浮かべる。


だがリリアナは、ふっと笑ってみせた。


「――大丈夫。全部の責任は、中央軍のハウゼン将軍が取るから」


一瞬の静寂のあと――ぷっと吹き出す声があちこちから漏れる。


「……ついにリリアナまで」「たしかにヴォルフならそうする」「ハウゼン将軍……」「王都から呼び出しくらうかも」


「荷台に乗せられる人はできるだけ乗せて」

「それ以外の人も、隊列を組んで王都まで連れて帰って」


場の空気が柔らかくなったそのとき――


「セリス」

ラシエルがすっと歩み寄る。手には布に包まれた何か。


「これ、休暇中にミレイアと作ったの」

「あなたの魔力の“ぶっぱ”を、ちょっと抑える仕様になってるわ」

「威力は落ちるけど、通常戦闘には十分なはず。……どうしてもって時は外してもいいけど、どうせまた怪我するんでしょう?」


自慢気な表情のまま、ラシエルは手袋を差し出す。


淡い青と白の糸が織り込まれた、魔力抑制の施された特製の革手袋だった。

威力が強すぎて、技を使う度に自身の細胞を傷付けていたセリスにとっては、"普通"に戦えること意味していた。


セリスは何も言わず、それを受け取る。


手袋をはめ、ぎゅっと拳を握り込む。

じっと手を見つめ――ほんの少し、口の端が緩んだ。





「………………」





「にやけた」

ルネがぼそりと呟く。


クラウスが少しだけ目を丸くし、ミレイアがふっと笑う。


リリアナも笑みを浮かべ、剣に手を添える。


「行こう。……中を確かめる」


その声に、全員が頷いた。


そしてリリアナ隊は、砦の南門へと踏み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ