第15話『軍の顔』2
「リリアナ。軍の“顔”って、誰だと思う?」
書類の束を前にしてうんざりしていたリリアナに、
ミレイアがふと問いかけた。
「え……将軍とか?」
「それもあるけど、最前線で見られるのは“小隊長”や“中隊長”よ。
あなたも、もうその一人」
リリアナは書きかけの申請書から顔を上げた。
「でも、私なんて……たった十人くらいの小隊でしょ?
ヴォルフみたいな中隊とは違うよ」
「違うのは“規模”だけ。
指揮官としての立場は、どちらもハウゼン将軍の指揮下で並んでいる。
あなたは、もう“部下”じゃない。部隊を預かる一人の指揮官よ」
その言葉に、リリアナは黙り込んだ。
ヴォルフと並ぶ、という現実に少しだけ身が引き締まる。
ミレイアは手元の地図を指しながら、静かに続ける。
「王国軍は、表向きは統一されてるけど……内部にはいくつかの“色”がある。
王直属の系統と、貴族派。
出世の仕方も、物資の優先順位も違う。時々、妙な緊張が走ることもある」
「……味方の中で?」
「ええ。
この砦にいるのは、王直属の部隊が中心だけど――
どこかであなたの昇格を面白く思わない人が出るかもしれない」
リリアナは思わず、机の上の部隊名簿を見つめた。
小隊の名前。
その下に並ぶ、仲間たちの名前。
(みんなで作った隊。やっと始まったばかりなのに……)
「……そんなことで敵になる人がいるなら、こっちはやることをやるだけだよ。
隊のために決めたことなら、何があっても貫く」
ミレイアの目がやわらかくなる。
「それでいい。
無理に誰かと比べなくていいの。
あなたは“小隊のリーダー”。
まずは、その隊を守ること。
その積み重ねが、指揮官としての信頼になる」
リリアナは深く頷いた。
「……わかった。
みんなと一緒に、少しずつ前に進むよ。
指揮官としても、ちゃんと」




