第14話『新部隊、発足』4
砦の南区画。
瓦礫を除けた仮設の屋根の下で、避難してきた村人たちが、ようやく床に腰を下ろしていた。
寝床の配置、水の配給、負傷者の確認――
そのすべてを、ミレイアは一人で仕切っていた。
「そこの子、こっちで毛布を分けるから、順番に並んで」
「重症者は一番奥へ。マリアが戻ったら優先的に診るよう伝えて」
「火を使うのは禁止。兵の食事から分けてもらうから」
冷静で、的確な指示。
でも、その声には、どこか疲労の色がにじんでいた。
そこへ――リリアナがやってきた。
「ミレイア」
「……おかえり。どうしたの? 何か足りないものでも?」
「ううん、違うの。……あなたに、伝えに来た」
ミレイアは手を止めて、初めてリリアナの顔をじっと見た。
「……何を?」
一瞬、風が吹いた。
砦の外から聞こえる兵士たちのざわめきが、ふと遠ざかる。
リリアナは深く息を吸って、はっきりと口を開いた。
「正式に、小隊長に任命された。
新しく“リリアナ隊”ができたの。――私はその、小隊長」
ミレイアの目が、わずかに見開かれた。
「……そう」
その一言のあと、数秒、無言が続く。
けれどやがて、ミレイアはゆっくりと、ふっと笑った。
「それは、ようやくね」
「……驚かないんだ」
「驚いたわよ。あなたがそこまで来たのが“ようやく”って思えるくらい、ずっと見てたから」
リリアナは、少しだけ照れたように目をそらす。
「……まだ全然、実感わかないけどね」
「いいのよ、すぐに背負えなくても。
そのうち、嫌でも“重さ”がわかるようになるから」
ミレイアの声には、静かだけど確かな温かさがあった。
「でも、よくやったわ。立派だった。あなたが隊長で、誇りに思える」
リリアナは、ミレイアのその言葉に、初めて少しだけ肩の力を抜いた。
「ありがとう、ミレイア。これからも、助けてね」
「もちろんよ。……小隊長殿」
リリアナは思わず吹き出した。
「ふふっ……やめて、それ。慣れないから照れるってば」
砦の夜が、ようやく静けさを取り戻しはじめていた。
新たに生まれた“隊”が、その一歩を踏み出した音が、
確かに、ここにも――届いていた。




