第14話『新部隊、発足』2
砦の広場には、まだ重たい空気が残っていた。
怪我をした村人たちは馬車から降ろされ、兵士たちに支えられて砦の中へと運ばれていく。
だがその目には、どこかしら――光があった。
そしてその中心に、ひとりの少女が立っていた。
リリアナ・アーデル。
彼女の前に立つのは、砦の将――ハウゼン将軍だった。
「リリアナ・アーデル」
リリアナは、思わず背筋を伸ばして応じた。
「は、はいっ!」
「報告の前に言っておこう。……貴様の行動は、すでにこの目で見ている」
ハウゼンの声が、砦全体に響き渡る。
「村の連絡途絶、伝令未帰還の状況下で、たった六人の偵察班が出発。
そのうちの隊長代理だった貴様は――村人六十余名の救出、死者ゼロ、追撃部隊の迎撃を成し遂げた」
広場がざわめきはじめる。
マリアが目を見開き、ノアは「えっ」と声を漏らした。
ロークも驚いたようにリリアナを見る。
「その上、戦場で指揮を取り、民間人の士気を保ち、仲間を鼓舞し、最後まで退くことなく戦い抜いた。
それはもう、隊長“代理”の功績ではない」
リリアナの目が、大きく見開かれた。
「……えっ……?」
「よってこの場において――
リリアナ・アーデルを、“遊撃小隊長”として正式に任命する。部隊名は“リリアナ隊”。即日発足とする」
その瞬間――静寂。
リリアナ自身が、目を見開いたまま言葉を失っていた。
「……わ、私が……本当に……?」
思わず自分の胸元を見下ろす。
誰かの冗談かとすら思えた。
だが、視線を上げた先――ハウゼンは静かにうなずいていた。
「事実を積み上げたのは、他の誰でもない。お前だ。
迷うな。誇れ。そして……命じろ。“その力”にふさわしい場所へ立て」
ノアが思わず声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って、リリアナが正式な隊長!? 本物の、あの小隊長ってやつ!?」
マリアも口元を手で押さえて、「すごい……本当に」と涙ぐんでいる。
ロークは、にやりと笑って小さく呟いた。
「"あのリリアナ"が小隊長か」
リリアナはしばらく黙って――そして、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「……はい。私が、小隊長になります。
みんなの命を預かって、みんなと一緒に戦っていきます」
その目は、迷いを超えて真っすぐに――仲間たちを見つめていた。
ハウゼンは満足そうにうなずいた。
「ならば行け。お前が背中を見せることで、兵は動く。
“英雄”とは、そうして生まれるものだ」
その言葉に、砦中がざわつき、リリアナの仲間たちが拍手を送りはじめた。
ヴォルフは階段の上で両手を腰に当てて笑っている。
「ハッハッハッ、見たかハウゼン! 俺の見る目に間違いはなかった!」
「……お前は何もしていない。むしろ勝手なことばかりしていた」
「だーから、今度酒でもおごるって! なっ?」
「お前というやつは……!」
広場に、わずかな笑いと温かさが広がっていた。
そして――
新たな“隊長”が、歩みを踏み出す音が、確かに砦に刻まれた。




