第13話『焔の選択』2
沈黙がしばらく続いたあと、リリアナが再びつぶやいた。
「……わたし、あの頃のままじゃ、きっと今ここにはいなかった」
ロークがちらりと横目でリリアナを見る。
「皿割って、スープぶちまけて、火を強くしすぎて鍋を焦がしてたあの頃のあたしなら……誰も救えなかったと思う」
「いや、お前の火力は昔から高かったぞ。物理的な意味で」
「ちょっと!? それ笑っていいとこじゃないよね!」
リリアナは怒ってロークを見るが、ロークは悪びれずに笑っていた。
「……でもな」
ふっと、ロークの笑みが薄れる。
「お前が変わって……戦えるようになって……たしかに、救える命は増えた」
「でも、同時に――“救えなかった命”も知るようになるんだ」
その言葉に、リリアナの目がふと、伏せられる。
「……わかってる。村で、半分しか助けられなかったこと。
追いつけなかったこと。追いかけたくても、全員の命を守るために帰らなきゃいけなかったこと」
ロークは頷きながら、手綱を少しだけ緩めた。
「その判断をできたってことが、すごいんだよ、リリアナ」
「でも……やっぱり悔しいよ」
リリアナの声が小さく震える。
「助けられなかった人のこと、何度も考える。
“もしかしたら、こうしていれば”とか、“あの時、選んでいれば”って……」
ロークはしばらく沈黙していたが、やがて穏やかに言った。
「そうやって思える奴が、指揮官には必要なんだ。
誰もが“完璧に救う”なんて無理だ。でも、救いたいと思い続けることは、できる」
「お前が、そういう隊長でよかったよ」
リリアナは目を閉じて、深く息を吸った。
「……ありがとう」




