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戦場の紅蓮姫  作者: エル
ミルヴァン村編
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第12話『孤高の雷鳴』1

――森の奥から、蹄の音が響いていた。


それは波のように連なり、重く、速い。

迫る軍勢の鼓動のように、夜の大地を震わせている。


この開けた場所から村人たちは後ろのの細い道へと進んでいった。


リリアナ、ローク、セリス。

三人は村人たちの背を守るように、道の入口に立ち塞がる。


リリアナは剣に炎を纏わせ。


ロークが双剣の柄を握り直す。


セリスは無言のまま、前を見据えていた。


 


「放て!!」


森の奥――敵の怒号が響いた。


直後、夜空に複数の閃光が走る。

いくつもの魔法が、空から降ってきた。


 


炎の塊が燃え上がりながら落下し、

氷の槍が鋭く尖って空を突き抜け、

岩石が砕けた破片を撒き散らしながら降り注ぎ、

風の刃が螺旋を描いて切り裂くように舞い降りる。


 


四方から――いや、真上から、同時に。


リリアナが息を呑むより早く、

セリスが一歩、前に出た。


 


無言で両手を突き出し、雷光を纏わせる。


雷壁らいへき

真上から落ちてきた炎の塊を、分厚い雷の盾が貫き、爆ぜる。


雷衝らいしょう

氷の槍に雷が走り、砕けた破片が空に舞う。


雷斬らいざん

螺旋を描いて降りてくる風の刃を、斜めに走る雷が裂いた。


雷柱らいちゅう

岩の塊が降ってくるのを、真下から突き上げる稲妻が砕き上げる。


 


連続する雷撃が、夜の静寂を切り裂いた。


バチィィィン――!!


空を支配するその姿は、もはや魔法の化け物のようだった。


 


「すご……」

リリアナは目の前で起きた魔法のぶつけ合いに、ミレイアの魔法を初めて見た時のような衝撃を受けていた。


そして、流れるように次々と魔法が飛んできた。


「上は引き受ける」

セリスは表情も変えないまま、上空を見つめている。




「数……相当だな」

ロークが低く呟いた。


前方――木々の隙間から、騎馬兵が突撃を開始してくる。


剣と槍を構え、怒声を上げながら突っ込んできた。



「セリス、お願いね」

 


リリアナが両手を前に出す。



(ここは絶対に通さない)


「守ろう、紅蓮炎!!」


 


ゴォオオオオッ!!!


地を這う炎が、一直線に敵兵の進路を焼いた。


馬が悲鳴を上げ、数人の兵士が振り落とされる。


転がるように地面に落ちた男が立ち上がろうとした――その瞬間。


 


「そっちには行かせねえよ」


ロークが踏み込み、大剣で敵の剣を弾き飛ばす。

小剣で喉元を断ち、倒れ込ませた。


「まだまだだな」


彼はすぐに次の敵へ向かっていく。


 


リリアナは炎を纏わせた剣を振るい、突撃してくる敵の足元を焼き払う。


斬り伏せる。

そしてまた構える。 


リリアナの頭上は、降り注ぐ魔法と、それを粉砕する雷の光に包まれていた。


敵はまだ来る。




リリアナたちは――まだ退かない。


その背後で、村人たちは命を握りしめ、

希望を背負って、森の先へと走り続けていた。


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