第11話『命の揺らぎ』1
村に戻ったとき、太陽は西へと傾きかけていた。
空の端が赤く染まり、木々の影が長く伸びている。
リリアナたちは救出した村人たちを連れ、再び倉庫の入り口へと向かっていた。
扉の音に人々がざわめく。
そして――
「……お父さん!」
「兄ちゃん……! 無事だったのね!」
歓喜の声と、駆け寄る足音。
地下に残っていた子供や老人たちが、一斉に救出された家族に抱きついていく。
「……よかった……ほんとに、よかった……」
泣き崩れる者。
静かに肩を震わせる者。
その光景を、リリアナは黙って見守っていた。
その背後で、ミレイアが歩み寄ってくる。
「やっぱり……戻れたのは、一部だけだった」
「え?」
「村の名簿を調べたわ。ここにいたのはもともと120人ほど。けど、今揃ってるのは――せいぜい60人ちょっと」
「……半分」
「ええ。残りの人たちは、すでに別の場所へ運ばれたってことね……」
言葉を切ったミレイアの表情は、いつになく重い。
「救い出したのは、ほんの一部だったってこと……」
リリアナの胸が、締めつけられる。
「それでも、助けた命は本物よ」
ミレイアが続ける。
「あなたが追いかけなければ、今ここにいる人たちすら戻れなかった」
リリアナは俯きながら、拳を握った。
「……でも、まだ半分が――」
「取り戻せばいい。次は、全員を」
その声に、リリアナは顔を上げる。
ロークが、壁にもたれながら小さく笑っていた。
「悔しい気持ちはわかる。でもな、隊長。
“半分を守れた”ってことは、“次は残りを助ける番”だろ?」
「……うん」
リリアナは深く頷いた。
その時、倉庫の隅で老女がぽつりと呟いた。
「……あの子も、連れていかれたんだ……戦争なんて勝手にやっておくれよ………
なんでわたしたちを巻き込むのさ……」
その声は怒りでも恨みでもなく、深い悲しみの底から漏れたものだった。
リリアナはその言葉を、胸に刻み込むように黙って聞いていた。
そして、ゆっくりと周りを見る。
「マリア、負傷者の状態は?」
「軽傷者はすぐ動けます。重い人も……時間をかければ」
「ノア、追撃の気配は?」
「まだ遠い。でも、もうすぐ来ると思う。足音が、風に混じってた」
「セリス、警戒と防衛をお願い。村を出たら、しばらく余裕はない」
「……了解」
リリアナは静かに皆を見渡した。
「……最低限の水と食糧を準備して。
もう、この村に安全な場所はない。
だから、今ここにいるみんなを連れて帰る。
遅くなったけど、これが――“私たちの任務”だ」
ロークがリリアナを見て微笑む。
「了解、隊長」
「ちびっこ隊、任務開始ーっ」
ノアが横から口をはさむ。
「……やかましい」
リリアナが苦笑した。




