第2話『剣を取る理由』1
リリアナの体は限界に近かった。
全身にこびりつく血と泥、焦げた金属の匂いが鼻を突く。
焼け爛れた大地に、倒れた兵士たちの影が幾重にも重なっていた。
戦場――そこは、生者と死者が入り乱れる場所。
「立ち止まるな、リリアナ!」
ガレンが鋭く叫ぶ。
「ここで止まったら、それこそ命はねぇぞ!」
「……っ!」
リリアナはこわばった足に力を込め、必死に前へ進む。
足元の遺体を踏み越えるたびに、胃の奥がひっくり返りそうな感覚に襲われる。
だが、ここは"戦場"。
そんな感傷に浸る余裕はない。
(……生き残らなきゃ……!)
自分は戦士ではない。
まともに剣も使えない。
けれど――ここで死ぬわけにはいかない。
その時だった。
「敵だ――ッ!!」
前方で味方の兵士が叫ぶ。
リリアナが顔を上げた瞬間、視界の端で何かが閃いた。
シュバッ――!
「……ッ!」
飛んできた槍が、リリアナのすぐ横をかすめる。
頬に浅い傷を残しながら、地面に突き刺さった。
「今度は何だよ……!」
ガレンが舌打ちをしながら、大剣を構える。
彼らの前に立ちはだかったのは――
重装備のグランツェル兵だった。
黒い鎧を纏い、巨大な斧を担いだ兵士が数人。
その後ろには、槍を構えた軽装兵が控えている。
「……厄介な相手だな」
ガレンが構えを低くする。
「リリアナ、今は俺の後ろにいろ」
「……」
彼の言葉に従いながらも、リリアナは歯を食いしばった。
(私は……ただ隠れているだけなの?)
戦う術を持たない。
それはわかっている。
でも――
「……やれることを探すしかない」
剣を強く握りしめた、その時――
「おらァァァ!!」
ガレンが吠え、地を蹴った。