第8話『鬼の訓練、再び』3
「――次は、最終段階よ」
ミレイアの声が静かに響いたとき、リリアナはすでに地面と親友になりかけていた。
「いま……何段階目……?」
「十二段階中の十一段階目よ」
「それ最終段階じゃないんじゃあああああっ!!」
「でも次が“最終段階”なのは事実よ」
ミレイアは涼しい顔で返す。
「ここまでで、炎の直進性、持続力、そして暴発しない出力はある程度整った。
でも“使える”って言うにはまだ早い。
最後にやってもらうのは――“迎撃”。」
「迎撃……って、もしかして――」
「相手の魔法を焼き尽くす」
ズウウン……と、ミレイアの周囲に風が渦巻いた。
風圧の先、訓練場の反対側に立った彼女の手には、風の刃――“風鎌”が浮かんでいる。
「この風の刃は、実戦で敵の魔法兵が使う水準に合わせてあるわ。
これを、あなたの炎で正面から迎撃して、かき消すの」
「え、ちょ、待って!?
あれ直撃したら普通にやばくない!?」
「しっかり狙うのよ?ちゃんと焼き払えば無傷で済むわ」
「おかしいでしょ!?なんでそんな軽い感じで言えるの!?」
「大丈夫よ。もし失敗したら、あなたが吹き飛ぶだけだから」
「そこもおかしい!!」
リリアナの悲鳴を無視して、ミレイアは手を上げた。
「準備はいい?」
「よくない!!」
「じゃあ、いくわね」
「だからなんで通じないのおおおおおおおおおお!!」
風が鳴り、風鎌が空気を裂いて突き進む――!
「ポジティブに、止めようおおおおぉぉぉぉ!!」
ゴッ!
リリアナが放った炎が、直線的に放たれる。
ゴオォォォ――ッ!!
空気が震え、風と炎がぶつかりあい、激しく爆ぜた。
ドンッ!!!
一瞬の静寂のあと、爆風が訓練場に吹き荒れる。
「……っく!!」
リリアナは両足を踏ん張り、両腕で顔を覆ってその場に立ち続ける。
――数秒後。煙の中に、ミレイアの姿が現れた。
「……止まったわね。風は、炎に焼かれた」
「え……本当に……?」
「ええ。今のなら、十分“使える”わ」
その言葉を聞いた瞬間、リリアナの膝が崩れる。
「うう……やったぁ……生きてるぅぅ……」
「あとは制御を保ったまま威力を上げるのよ。それはこの技を使っていくうちに慣れるわ」
その様子を柵の外から見ていた三人。
ガレン「おお、成功したな」
ハルド「普通にすげえな……なんか感動した」
ローク「……それにしても見た目が限界だな。あれ、完全に“焼き上がって”るぞ」
ちりちりになった髪、ススまみれの顔、焦げたマント。
リリアナは四つん這いで地面を這いながら呟く。
「もう……何も怖くない……」
「いや、怖がれよ。次まだ村の調査任務あるからな」
ガレンが笑いながら、そっと水袋を差し出した。
こうして、三日間の“鬼訓練”は幕を下ろす。
炎の制御を得たリリアナは、次なる戦場――
通信が途絶えたミルヴァン村へ向かうことになる。




