第1話『戦場に咲く炎』 4
リリアナの足は泥に沈み込み、冷たい血の感触が靴の中に染み込んでいく。
周囲にはうずくまる兵士、動かなくなった遺体、そしてまだ戦っている者たちの怒号が響き渡っていた。
「こっちだ、リリアナ!」
ガレンがリリアナの腕を引き、無理やり立ち上がらせる。
「ここで立ち止まったら、ただの的だ!」
「でも……!」
リリアナが後ろを振り返ると、泥の中に倒れている一人の兵士が目に入った。
彼は血まみれになりながらも、微かに息をしている。
「助けなきゃ……!」
リリアナは駆け寄ろうとした。
しかし、
「バカが!」
ガレンの拳が、リリアナの腹にめり込んだ。
「――ぐっ!」
リリアナは息が詰まり、その場に膝をつく。
「いいか、リリアナ!」
ガレンが低い声で言った。
「戦場では"助けられる命"と"助けられない命"がある。お前がここで死んだら、何の意味もねぇ!」
「……でも!」
「反論するな! 走れ!」
リリアナの体が吹き飛ぶように、ガレンに引っ張られる。
振り返ることすらできなかった。
その時――
「ぎゃあああっ!」
背後で悲鳴が響いた。
振り向いた瞬間、リリアナの目に映ったのは――
先ほどの兵士の首が、槍に貫かれる光景だった。
「……っ!」
リリアナの体が震える。
ガレンはそんな彼女を睨みつけた。
「分かったか? これが戦場だ」
リリアナの唇が震える。
「助ける力がない奴が、無謀に動けば――余計な死者が増えるだけだ」
「……そんなの……」
「嫌なら、お前は強くなるしかねぇんだよ!」
ガレンがリリアナの肩を叩く。
「生き延びて、強くなれ。それが、今のお前にできることだ」
リリアナは拳を握りしめた。
(……強くならなきゃ)
歯を食いしばりながら、リリアナは再び前を向いた。