第5話『前線の戦火』 7
丘の上を目指して駆け上がるヴォルフ隊。
だが、頂上まではあと数メートル――そのわずかな距離が、まるで果てしない壁のように立ちはだかる。
「押せッ!頂まであと少しだ!!」
ヴォルフの怒号が再び響く。
敵の剣士たちは狂気にも似た叫び声をあげながら、リリアナたちを押し戻そうと斜面を滑り降りてくる。
「くっ……!」
リリアナは炎を纏わせた剣で次々と攻撃を捌くが、足場が悪く一歩の踏み込みすら困難だ。
「お前だけは通さねえ!!」
重装の敵兵が盾を構えて突進してくる。
「まずいっ……」
リリアナが巨体の力技に押され始めたその瞬間。
ガチィン!
「押し通る」
駆け上がってきた兵士が敵兵の盾に体当たりした。
リリアナはその兵士を見たが、初めて見る顔だった。
ガシャッ!
「踏ん張れぇぇ!!」
「押せぇぇ!!」
間髪を入れずにまた1人、更に1人と兵士が加わり、リリアナと共に4人で盾を押し返す。
ガシャーン!
巨体が仰向けに倒れた。
「走れー!!」
名前も知らない兵士達と一斉に走り出す。
ハルドの雷が前方の敵を弾き、ミレイアの風が味方の進行路を切り開く。
「風よ、薙げ!風刃輪!!」
シュバッ!!
風の刃が斜面を切り裂き、敵の列を寸断する。
「これで道は空いたわ!」
ミレイアが叫び、それに応えるよにガレンも叫ぶ。
「今だ!!駆け上がれ!!」
既に走り出していたリリアナ達は、一気に頂上まで駆け上がった。
そして――
頂上の旗が、ついに倒れた。
リリアナが炎の剣を天高く突き上げる。
「制圧完了ッ!!!」
誰かが叫び、それが勝利の合図となった。
重たい風が、頂の戦場に吹き抜ける。
リリアナは剣を地面に突き立て、その場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……やっと……」
息も絶え絶えの中、それでも彼女の目は燃えていた。
真紅の炎と共に、リリアナ・アーデルの物語は、確かな一歩を踏み出したのだった。




