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戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
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最終話『二つの王と、一つの未来』パート6:笑顔の未来へ

時間が流れ――灰の砦の朝に、また新たな出発の時が訪れていた。

 


砦の広場には、幾台もの馬車が並び、兵士たちが荷を運び入れている。



木箱にはアルテシア各地から集められた鉄鉱石や野菜、道具類が詰められたいた。

 


戦後の和平に伴い、両国は新たな貿易協定を結び、灰の砦はその中継地として大きく役割を担うようになった。



グランツェルは鉄鋼や機械加工に長けた国であり、アルテシアは鉱石資源と農産物が豊富だ。



両国の強みを生かし合い、物資を交換することで、それぞれの生活基盤を整え始めている。



 

「よいしょ……よし。これで精霊たちも安心して乗れるね」


ティオが馬車に積み上げた木箱を見ながら言った。



「……そうですね。精霊たちも快適な旅になるように、木箱の隙間に布を詰めてください」


ラシエルが淡々と返すと、ティオは荷台に積まれた箱の隙間をふかふかの布で埋めていった。


 



リリアナは砦の門の先――かつて争いの前線だった道の向こうを見つめる。


今ではその道が、未来を繋ぐ橋になっていた。


 


「さて、そろそろ出発の時間ね」


ミレイアが帳簿を確認しながら、静かに言った。


 

「うん、みんな乗って。前に遅れたとき、シアネさんから“原因は何か、聞いてもいいですか?”って、すっごく優しく尋問されたんだから」



苦笑気味のリリアナの一言に、兵士たちがくすくすと笑いながら馬車に乗り込んでいく。


 


第三部隊はすでに、グランツェル王都に“駐在部隊”として籍を置いていた。



今回はその任務の一環として、王命の下、アルテシアからの物資を届けると共に、灰の砦付近の視察をする役割を担っていたのだ。


 


かつて戦争の拠点となっていた砦を後にし、リリアナと仲間たちは――“未来”へと馬車を進めた。


 


馬車の列は、グランツェルへ向かう途中、ミルヴァン村に立ち寄った。

 


かつてグランツェルに連れ去られた村人たちが住んでいた場所であり、戦時中はほぼ無人だった村だ。


だが今では、完全に息を吹き返していた。


 


「紅蓮姫だーっ!」


 


そう叫びながら、何人もの子どもたちが飛び出してきた。


紅い髪の少女、まだよちよち歩きの子、小さな兄弟たち……皆が笑顔で、手を振っている。


付近にいた村人たちも駆け寄ってきた。 



「おかえりなさい、リリアナ!」

 


「ただいま。村が……戻ってきたんだね」



リリアナが思わず立ち止まり、村の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 


かつて奪われ、戻れなくなった村が、また“生活の匂い”を取り戻している。



畑には芽吹いた緑があり、笑顔の家族があり、そして――未来があった。


 


「あたしたち、守れたんだね」



ノアと呟くと、隣でセリスが小さく頷いた。



 


そして馬車は、グランツェルの王都へとたどり着く。

 


かつての重苦しさはもうない。



瓦礫は撤去され、建物が立ち直り、市場には人が戻っていた。



通りには行商の声が飛び交い、子どもたちが駆けまわり、兵士たちは剣を磨く手を止めて笑っている。


 


「変わったなぁ……」


ロークが感慨深そうに呟いたその時だった。


 


――ワンッ!


 


「待ってー!!かみさまー!!」


 


突如、通りの向こうから奇跡の耳をパタつかせた神が、全力疾走してきた。


 


馬車の荷台に向かって一直線。


そこに山積みされた、アルテシアからの“新鮮野菜”。


 


「――ライム!待て!」


ルネの叫びを無視し、ライムが軽々と馬車に飛び乗る。



「ダメですっ!」


マリアが野菜を庇うが、量が多すぎて庇いきれない。



勢いよく袋をくわえた瞬間――


 


「きゅうりが持っていかれました!」



クラウスが止めに入るが、間に合わない。


 


「待つのーっ! だめなのーっ!!」


キユ、コヨ、テトが全力で追いかけていく。


 


逃げるライム、追うヘルダス隊、叫ぶ兵士、野菜が転がり、転ぶローク、頭を抱えるミレイア。



市場の真ん中が、ちょっとした混乱に陥った。


 


だが――それは、まぎれもない“日常の騒がしさ”だった。


 


リリアナは笑いながらその光景を眺めた。



空を見上げると、やわらかな陽が、グランツェルの王都を包んでいた。


 


「……この光を繋いでいこう。明日へ」



 

戦いは終わった。



けれど、未来は始まったばかりだ。



この空の下に



誰かの涙じゃなく



笑顔が咲く日々を



私たちは――願い続ける。


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