最終話『二つの王と、一つの未来』パート5:新たな国のかたち
ハウゼンの決意を受け、アグナス王は静かに言葉を継いだ。
「もう一度言うが、グランツェルは、アルテシアの属国とせぬ」
その言葉に、ユリクがわずかに目を見開く。
「我々は勝者であるが、覇者ではない。力によって奪ったものを、再び力で縛るつもりはない」
王の声は厳かで、しかしそこには確かな信念が宿っていた。
「グランツェルは、アルテシアの“友好国”として独立を保つ。それを前提に、我が国はできる限りの協力を惜しまぬ」
場に、かすかな安堵が走る。
「さて」
アグナスが、今度は別の方向に視線を向けた。
ミレイアだった。
「民の生活を立て直すのが先決ね」
彼女は落ち着いた口調で、謁見の間にいる全員へと語りかける。
「おそらく今のグランツェルには、戦争で荒れた街を治める政治機能も、物資の流通も、人の流れも……全てが欠けているわ」
「それでも、国を再建する意志があるのなら――まずは、“暮らし”を取り戻すことが必要なの」
そして、アグナスの一言が、会談の空気を大きく変えた。
「……アルテシアの貴族から、顧問を派遣しよう」
「内政に通じ、民の声を聞き、時にお前たちを正せる者。……そうだな、シアネ・クリスタルが適任だ」
リリアナの胸に、凛とした姿が思い浮かんだ。
白銀の髪を揺らす、あの知性と誠実の象徴のような人――。
「シアネさんが……」
ミレイアが頷き、微笑んだ。
「ええ。彼女なら、きっと誰よりも、公平に物事を見てくれるはず」
「ならば決まりだな」
王の決断は揺るぎない。
ハウゼンとユリクが柱となり、シアネがそれを支える形となる。
だが、治めるには、もう一つ必要なものがあった。
「そして、軍の指揮系統も暫定的に整えねばなるまい」
アグナスが改めて玉座の間を見渡す。
「グランツェルはこれまで、“力こそすべて”という価値観に支配されていた。ならば――体勢が整うまでは、その“力”も持ち合わせておく必要がある」
「第三部隊、およびヘルダス隊。お前たちには当面の間、グランツェル駐在を命ずる」
リリアナ、キユ、セリス。
極大魔法を使える三人の名が思い浮かぶ。
その場にいた者たちも、異論は無かった。
彼女たちの力を前にしては、かつての武力至上主義の残党でさえ、黙らざるを得ない。
「争いの火種は、完全に消えてなどおらぬ。だが、“新しい秩序”は、今ここから始まる」
アグナス王の言葉により、これから生まれる"新しい国"への一歩が踏み出された。




