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戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
244/247

最終話『二つの王と、一つの未来』パート3:紅蓮姫の想い

「――少しだけ、私からも話をさせていただけますか」


 


静かな、けれど通る声だった。


重く沈んだ謁見の間の空気を、わずかに切り裂くように、リリアナは一歩を踏み出した。


アグナスが玉座へ座り直したのを合図に、リリアナは話し始めた。


 


「私は、中央軍第三部隊の部隊長、リリアナ・アーデルです。……王都に召された理由は、多くの兵とともに、グランツェルとの戦争の最前線で戦っていたからです」


 


リリアナはゆっくりと、誰かを諭すように、しかし目の奥は強く、まっすぐに言葉を続けた。


 


「戦場には、正義も誇りも、綺麗な勝利もありませんでした。そこにあったのは、ただ……命が失われていく音でした」


 


誰かが息を呑む音がした。


 


「グランツェルの兵も、アルテシアの兵も、それぞれの命を賭けて戦い、同じように倒れていきました。敵と味方という言葉では、割り切れない感情も……何度も何度も、飲み込んできました」


 


「勝った、負けたと誰かが言います。でも、本当に“勝った”者なんて、あの場所には誰もいなかったんです」


 


リリアナの声は少しだけ震えていた。


それでも、彼女は止まらなかった。


 


「そして……民たちは、もっと酷かった」


 


「あの戦場にいた民間人たちは、戦争の理由さえ知らず、ただ突然、生活を壊されました。家も、家族も、生きる日常も……全部、炎に焼かれていった」


 


視線を落とし、リリアナは深く息を吐いた。


 


「“勝った”側の私たちですら、失ったものは数えきれません」


 


しばしの沈黙の後、顔を上げる。


その瞳は、今度はアグナス王をまっすぐに射抜いていた。


 


「……私たちは勝ちました。でも、その勝利は“正しかった”と言えるでしょうか?」


 


「私は、兵たちの苦しみを知っています。仲間を喪った叫びを、声を、涙を、幾度も見てきました」


 


「どこを探しても家族が見つからず、帰る場所さえも奪われて、"偉い人"が勝手に決めた戦争で人生を壊された人もいます。……それでも、“勝った”から、このまま進んでいいのでしょうか?」


 


リリアナの視線は、ユリクへと向く。


 


「ユリク王。あなたが治めることになるその国で、兵たちはずっと“恐怖”で従っていました。あの目の光は、命令ではなく“強制”に従う者のものでした」


 

彼女の声は、優しかった。


厳しくも、誰かを責めるものではなく、導くように穏やかだった。



 

「恐怖ではなく、誰かを想って動ける国。……それをあなたが目指すというのなら、私は――あなたを信じられると思います」

 

 


ユリクは小さく頷いた。


感情を飲み込みながら、必死に堪えるような表情で。


 


そして、再びリリアナはアグナス王へと視線を戻した。


 


「アグナス王。“生きたい”と叫ぶ声に、耳を傾けてください。命を守ることを、誇りとする国にしてください」


 


「力で制する国より、命を守れる国の方が、私は強いと思います。人は、生きて、手を取り合ってこそ未来を築けるはずです」


 


謁見の間が、静まり返っていた。


 


誰もが、少女の言葉に耳を奪われていた。


 


その最後に、リリアナはもう一度ユリクを見つめ、静かに言葉を結ぶ。


 


「どうか、この戦争の終わりを“敗戦”と呼ばないでください」


 


「戦争が終わった今を、“始まり”にしてください」


 


「戦いの先にある未来が、誰かの“生”に繋がっていると、私は――信じたいのです」


 


それは、長い戦いの中で生きてきた少女の、魂のすべてを込めた訴えだった。



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