表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
243/247

最終話『二つの王と、一つの未来』パート2:王たちの問答

王宮の奥、謁見の間――


荘厳な扉が静かに開き、一行はゆっくりと中へと進んだ。


 


その場には、重苦しいまでの静寂があった。


 


高くそびえる天井、壁に掲げられた王紋の旗、整列する衛兵たちの無言の威圧。


その全てが、今ここに集う者たちを、王の前に立つ「臣」として強く意識させる。


 


玉座の上には、アルテシア国王・アグナス。


戦乱と政争を超えてきた鋼鉄の王。


その瞳は、並ぶ者すべての魂を透かすように鋭かった。


 


一行が揃って跪き、ハウゼンが最初に進み出て頭を垂れた。


その後ろ、痩せた少年が歩み出る。


グランツェルの少年王――ユリクである。


 


彼の足取りには、わずかな震えがあった。


だがその瞳は、確かに王を名乗る者のそれだった。


 


「……アルテシア王、アグナス陛下。私は……この戦争を、終わらせたいと願っています」


 


その声は小さくとも、誰の耳にも届いた。


 


「グランツェル王、ユリク・グラーデン。父の死の後、私は王座を継ぎました。けれど、実権は……軍を支配していた、カイルが握っていました」


 


静かに、少年は言葉を紡ぐ。


 


「私は、王でありながら、何も守れなかった。民を、兵を、国を……。ですが今、もう一度――国を、やり直したいのです」


 


玉座のアグナスは、動かなかった。


ただ、鋭い視線でユリクを見据えたまま、しばし沈黙する。


 


「やり直す、か……」


 


ようやく発せられたその一言に、空気が張り詰めた。



「少年。貴様の“やり直し”は、何をもって果たされる?」

 


アグナスの声は重く、抑制された怒気のようなものを含んでいた。


 


「お前が“やり直したい”と願うのは結構だ。だが、それは誰が代償を払うのだ?」


 


ユリクの肩が震える。


 


「……もう、誰も……失いたくはありません。兵を道具のように扱うことも、民に恐怖を与えることも、私は……」


 


「理想論だな」


 


アグナスは淡々と断じた。


 


「この世界において、“誰も失わずに手に入れられる平和”など存在しない」


 


玉座の王は立ち上がる。


威圧感が、一層強まった。


 


「カイルが王を支配した。なぜだか分かるか? 力を持っていたからだ。軍を動かし、声を支配し、恐怖を広めた。結果、誰もが従った」


 


「――王とは、力の象徴だ。民を従える“器”でなければ、いずれその王座は誰かに奪われる」


 


その言葉は、紛れもなくアグナス自身の生き様だった。


 


「お前が再び“力のない王”として国に戻るのなら、同じことが起きるだけだ。次は誰が血を流す? 誰が灰になる? 私の兵か? お前の民か?」


 


ユリクの喉が震えた。足元を見ていた視線を、ぐっと持ち上げる。


 


「……それでも、逃げません。私は、王として……この命を懸けて、国を守ります」


 


その声は、かすれていても真っ直ぐだった。


震えはまだ残っていたが、少年の瞳は揺れていなかった。


 


アグナスは黙ったままユリクを見据える。


 


冷たくも、温かくもない眼差し。


すべてを沈黙のまま呑み込み、何も語らぬ王の表情。


 


やがて、謁見の間には沈黙が降りた。


風もないのに、旗がどこか重く揺れて見える。


 


その静寂を破ったのは、少女の声だった。


 


「――少しだけ、私からも話をさせていただけますか」


 


王たちの問答に、リリアナが割って入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ