最終話『二つの王と、一つの未来』パート2:王たちの問答
王宮の奥、謁見の間――
荘厳な扉が静かに開き、一行はゆっくりと中へと進んだ。
その場には、重苦しいまでの静寂があった。
高くそびえる天井、壁に掲げられた王紋の旗、整列する衛兵たちの無言の威圧。
その全てが、今ここに集う者たちを、王の前に立つ「臣」として強く意識させる。
玉座の上には、アルテシア国王・アグナス。
戦乱と政争を超えてきた鋼鉄の王。
その瞳は、並ぶ者すべての魂を透かすように鋭かった。
一行が揃って跪き、ハウゼンが最初に進み出て頭を垂れた。
その後ろ、痩せた少年が歩み出る。
グランツェルの少年王――ユリクである。
彼の足取りには、わずかな震えがあった。
だがその瞳は、確かに王を名乗る者のそれだった。
「……アルテシア王、アグナス陛下。私は……この戦争を、終わらせたいと願っています」
その声は小さくとも、誰の耳にも届いた。
「グランツェル王、ユリク・グラーデン。父の死の後、私は王座を継ぎました。けれど、実権は……軍を支配していた、カイルが握っていました」
静かに、少年は言葉を紡ぐ。
「私は、王でありながら、何も守れなかった。民を、兵を、国を……。ですが今、もう一度――国を、やり直したいのです」
玉座のアグナスは、動かなかった。
ただ、鋭い視線でユリクを見据えたまま、しばし沈黙する。
「やり直す、か……」
ようやく発せられたその一言に、空気が張り詰めた。
「少年。貴様の“やり直し”は、何をもって果たされる?」
アグナスの声は重く、抑制された怒気のようなものを含んでいた。
「お前が“やり直したい”と願うのは結構だ。だが、それは誰が代償を払うのだ?」
ユリクの肩が震える。
「……もう、誰も……失いたくはありません。兵を道具のように扱うことも、民に恐怖を与えることも、私は……」
「理想論だな」
アグナスは淡々と断じた。
「この世界において、“誰も失わずに手に入れられる平和”など存在しない」
玉座の王は立ち上がる。
威圧感が、一層強まった。
「カイルが王を支配した。なぜだか分かるか? 力を持っていたからだ。軍を動かし、声を支配し、恐怖を広めた。結果、誰もが従った」
「――王とは、力の象徴だ。民を従える“器”でなければ、いずれその王座は誰かに奪われる」
その言葉は、紛れもなくアグナス自身の生き様だった。
「お前が再び“力のない王”として国に戻るのなら、同じことが起きるだけだ。次は誰が血を流す? 誰が灰になる? 私の兵か? お前の民か?」
ユリクの喉が震えた。足元を見ていた視線を、ぐっと持ち上げる。
「……それでも、逃げません。私は、王として……この命を懸けて、国を守ります」
その声は、かすれていても真っ直ぐだった。
震えはまだ残っていたが、少年の瞳は揺れていなかった。
アグナスは黙ったままユリクを見据える。
冷たくも、温かくもない眼差し。
すべてを沈黙のまま呑み込み、何も語らぬ王の表情。
やがて、謁見の間には沈黙が降りた。
風もないのに、旗がどこか重く揺れて見える。
その静寂を破ったのは、少女の声だった。
「――少しだけ、私からも話をさせていただけますか」
王たちの問答に、リリアナが割って入った。




