表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
242/247

最終話『二つの王と、一つの未来』パート1:灰の砦への帰還

――夜明け前の空は、まだほんのりと青を帯びていた。


 


幾台もの馬車が、静かに灰の砦の門をくぐる。


その後方には、布を羽織った民間人たちの一団。


彼らは、グランツェル要塞の地下牢から救い出された者たちだった。


中には子供の姿もあり、互いに寄り添いながら、無言で砦の中へと進んでいく。


 


「……到着だ。急げ、怪我人を奥へ!」


「こっちに空き部屋ある! 案内する!」


 


アルテシア兵たちが駆け回り、民間人の搬送に動く。


砦の中庭には簡易ベッドや仮設の休息所がすでに整えられており、マリアをはじめとする医療班が次々と声をかけていた。


 


「この方、熱があるみたい! 寝かせて、タオルを!」


「はい! 毛布、こっちです!」


 


その中を、ゆっくりと進む一台の馬車。


薄手の毛布にくるまれた少女が、その揺れの中で微かに目を開けた。


 


「……灰の砦……」


 


小さな声で呟いたリリアナに、隣で付き添っていたミレイアが微笑む。


 


「ええ。無事に戻ってきたのよ」


 


リリアナは、痛む体をかばうように息をつきながら、砦の天井を見上げた。


どこか懐かしい匂いがする。


冷たい朝の空気。


仲間たちのざわめき。


――ああ、私たち、帰ってこれたんだ。


 


「……ミレイア。みんなは?」


 


「民間人も、兵も、全員無事よ。あなたのおかげで、誰も命を落とさなかったわ」


 


その言葉に、リリアナの目がわずかに潤んだ。


彼女は頷き、ぐっと唇を引き結ぶ。


 


「よかった……ほんとうに、よかった」



 


その後、ミレイアは司令室に呼ばれ、状況の整理が進められていた。


そこにいたのは、ハウゼン、ヴォルフ、そしてユリク。


地図を広げながら、今後の対応が話し合われていた。


 


「……王都への連絡は?」


 


ヴォルフが問うと、ハウゼンが深く頷いた。


 


「すでに伝令は走らせた。民間人の収容が不可能な数だ。王都の協力を仰がねばならん」


 


「それだけではないわ」


ミレイアが地図の端を指差す。


 


「グランツェルの王であるユリク陛下が、アルテシア王と直接話したいと申し出ているの。こちらとしても、和平の交渉が必要になるわ」


 


ユリクは一同を見渡す。


 


「……ぼくの言葉が、どこまで通じるかわからない。でも……グランツェルのこれからを、先代やカイル作ったものとは違う道にしたいんです」


 


その言葉に、ハウゼンが腕を組み、しばし黙したのちにうなずいた。


 


「……分かった。これから民間人を王都護送する。そのまま王宮へ選抜の代表で向かう。リリアナが動けるなら、彼女にも同行してもらいたい」


 


「リリアナが……?」


 


ヴォルフが少し驚いたように眉を上げると、ハウゼンは静かに目を細めた。


 


「あれだけの傷だ。だが、マリアたちが手際よく対応してくれたらしい。本人が望むなら、連れて行く」


 


「そうね……彼女なら、“現場の声”を届けてくれるわ」


ミレイアが力強く続けた。


 


ユリクも小さくうなずいた。


 


そのとき、扉の外から声が届く。


 


「リリアナ様、ご自身で歩いていらっしゃいます!」


 


全員の視線が扉に集まる。


 


そこに立っていたのは、傷ついた腕をかばいながらも、まっすぐに歩いてくるリリアナだった。


顔にはまだ疲労の色が残っていたが、瞳ははっきりと開いていた。


 


「私、行きます。話さなきゃいけないことがある。……アルテシアの兵として、戦争の当事者として」


 


その言葉に、ハウゼンは小さく笑った。


 


「……頼もしい限りだな。ならば――準備を急ごう」


 


それから数時間後。


砦の正門が、再び静かに開かれる。


王都に向かう馬車隊――民間人を乗せたもの、兵士たちの護衛隊、そして会談に向かう選抜メンバーを乗せた隊列が、朝の光の中へと進み出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ