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戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
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第46話『奪還と歓喜』パート4:小さな王

民間人たちの救出が一段落し、兵士たちは水や毛布を配って回っていた。


崩れた瓦礫や焼け焦げた土のにおいの中に、人の息遣いと、微かな安堵が戻りつつある。


 


その広場の中央に、ふらふらと歩く小さな影があった。


 


「……ん? 子供か?」


 


ロークが眉を寄せる。


ラシエルが小声で囁いた。


「ただの子供ではありませんね。……たぶん、高位の者です」


 


ぼろぼろの衣服。


やせ細った頬。


だが、彼の瞳はまっすぐだった。


まるで、何年も言えなかった言葉を、今こそ口にすると決めたかのように。


 


少年は、広場の真ん中まで来て立ち止まると、小さく息を吸い、震える声を押し出した。


 


「……ぼくが、この国の王です。ユリク・グラーデンです」


 


一瞬、周囲の時間が止まったようだった。


兵も民も、誰もがその声に振り返る。


グランツェル兵の何人かが、はっと目を見開き、慌てて頭を下げた。


 


「王……?どういうことだ」


 


ヴォルフが問いかけると、ユリクは続けた。


 


「……父が、王でした。病で倒れて……ぼくが継ぎました。けれど」


彼は両手を握りしめる。


 


「その時、いちばん力を持っていたのが、カイルだったんです」


 


風が吹いた。


誰もがその名に、何かが喉に詰まるような感覚を覚えた。


 


「グランツェルでは……軍が、国を動かします。

誰が王かより、“誰が軍を握っているか”が、大事なんです」


 


その言葉に、ヴォルフがゆっくりと前に出る。


「……お前は、王でありながら、何もできなかった。それを、今ここで話すつもりか?」


 


問いは厳しいようで、どこか優しさも含んでいた。


ユリクは、俯きそうになるのをこらえるように、顔を上げた。


 


「はい。……言わなければ、いけないと思いました。

ぼくは、止めたかった。戦争も、支配も。けれど……止められなかった。

ぼくの命も、皆の命も、あの人に握られていたから」


 


彼の目が揺れながら、それでも前を向いている。


 


「それで……カイルは……」




空気を断ち切るように、ヴォルフが一歩前へ出る。


 


「……お前に、伝えておかねばならないことがある」


 


ユリクが顔を上げる。


ヴォルフの表情は、ただ厳しく、真実だけを見つめていた。


 


「カイルは……戦いのあと、すぐに担架で医療棟に運ばれた」


「魔力の使いすぎで、全身が焼かれ、命の炎は……すでに尽きていた。限界が近かった体で極大魔法を使った代償だ」


「治療は試みたが、意識が戻ることはなかった。静かに息を引き取ったよ」


 


ユリクの目が、わずかに揺れた。


息を飲み込むようにして、彼は小さく頷いた。


 


「……そう、ですか」


 


その声には、怒りも、悲しみもなかった。


ただ、受け止めるしかないという、現実を見据えた者の響きがあった。


 


「……僕は、あの人に逆らえなかった。だけど……生きていたなら、何か言えたのかもって、思ってしまう」


 


ヴォルフは黙って、その言葉を聞いていた。


 


「それでも、もう……前を向くしかないんですね」


 


「そうだ」


 


ユリクはその場で、静かに一礼した。


 


「……教えてくださって、ありがとうございます。ぼくは、この国を変えたいと思っています」


 


その言葉に、グランツェルの兵士たちがざわめく。


それは反発ではなく――驚きと、希望のにじんだざわめきだった。


 


ヴォルフがしばらく沈黙したのち、重い口を開く。


「その言葉に、嘘はないな」


 


広場へ来ていたミレイアがそっと肩を並べ、静かに頷いた。


「彼の瞳は、支配者のものじゃないわ。……本当の意味で、“王”になろうとしているのね」


 


ユリクは、ふっと息を吐いた。


まだ少年の面影を残すその横顔は、それでも、何かを背負う覚悟を宿していた。


 


「……降伏の意志を、正式に伝えたい。

ぼくは、あなたたちの国の王に会いたい。お願いできますか」


 


ヴォルフが静かに頷いた。


「わかった。民間人を連れて帰る時に、同行してもらおう」

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