第46話『奪還と歓喜』パート1:降伏
空に咲いた紅蓮の花が、静かに消えていった。
その光が去ったあと、空は――ただ、青かった。
黒炎も、黒煙もない。
ただ、いつもの空が、そこに戻っていた。
地上は、まるで時間が止まったかのように静かだった。
剣を構えたままの兵士。
杖を持ったまま呆然と立ち尽くす者。
傷を負った者。
彼らの視線は皆、空を見上げていた。
そこには、もう、何もなかった。
「……終わった、のか……?」
誰ともなく、誰かが呟いた。
その言葉が風に乗り、戦場をゆっくりと駆けていく。
やがて、カチャン、と音がした。
一人のグランツェル兵が、手にしていた剣を地面に落としたのだ。
それを合図にするように――
次々と、兵たちが武器を手放していった。
「……もう、戦う理由なんて……」
「カイル様は……終わったんだ」
震える手で剣を捨て、膝をつく兵。
力なく腰の短剣を外し、地面に並べていく兵。
その中の一人が、アルテシア軍の兵士へと近づいた。
敵ではない、という意思を示すように、両手を上げながら。
「……民間人は……地下にいます」
その声に、周囲が一斉に振り向いた。
「……牢が、砦の三カ所にあります。地下へ繋がる扉の場所も、知ってます。案内します……どうか、一刻も早く……!」
兵士の目に浮かんでいたのは、恐れでも憎しみでもなかった。
ただ、助けてくれと願う者の目だった。
その言葉を受けて、ノアとロークが即座に駆け寄る。
「案内、頼む。マリアとミレイアはリリアナを頼む!」
「了解、まかせて!」
セリスたちもロークの後を追い、グランツェル兵もそれに続いた。
すぐに周囲の兵士たちも動き始め、砦内への突入準備が始まる。
そんな中、別のグランツェル兵が、ミレイアのもとへ駆けてきた。
「そこの彼女……! 怪我人は医療棟へ。担架も、資材庫の裏に……!」
ミレイアが驚いたように目を見開く。
だが、グランツェル兵の表情は真剣なものだった。
「わかったわ。お願い」
アイアス隊が担架を運び出し、倒れている負傷兵たちを載せていく。
リリアナも、その中のひとりだった。
「治癒部隊!医療棟へ移動!グランツェル兵に従って!」
ミレイアが声を張ると、マリアや治癒班が次々と集まり、担架で運ばれる負傷者を治療しながら移動を始めた。
戦場はもはや、敵と味方ではなく、助ける者と、助けられる者という境界で動いていた。
ひとつ、またひとつ、剣が地面に置かれるたび――
剣ではなく、言葉が交わされていく。
恐怖ではなく、協力が生まれていく。
そんな空気の中、中央に立ったヴォルフが、最後に声を上げた。
「民間人は、複数の場所で監禁されてるらしい! 動ける奴は手分けして行ってくれ!」
その一声に、兵たちが応じた。
グランツェル兵とアルテシア兵が、声を掛け合って。
バラバラだったはずの者たちが、一つの目的のもとに動き出す。
命を助けるために。
未来を、奪い返すために。
砦に、足音が響き渡った。




