第45話『戦場に咲く炎』パート3:最後の壁
空に浮かぶ黒い太陽は、ゆっくりと下降を始めていた。
その動きは遅く、だが確実に、世界を終わらせる落日として地上を黒く照らす。
キユが白い魔力を極限まで高める。
地上では、セリスが雷を纏い始めていた。
彼もまた、地上での戦いにより、魔力に余裕の、ある状態ではなかった。
だが、顔には一切の迷いはない。
雷光を纏うその背が、静かに前を見つめていた。
その様子を見て、ミレイアが叫ぶ。
「だめ!! 二人とも!!今、極大魔法を撃てば……命に関わるわよ!!」
セリスが顔を向けることはなかった。
ただ、微かに頷いたように見えた。
キユもまた、返事はしなかった。
それでも、両手を広げ、氷の魔力をゆっくりと天に掲げようとしていた。
誰もが息を呑む中――
地上で、紅い魔力が渦を巻き始めた。
金い髪が、風に揺れる。
炎のように揺れるその姿が、紅い魔力の中心に立っていた。
リリアナだった。
彼女は、すでに両手を前に伸ばしていた。
両腕から放たれる魔力は、紅蓮のごとく渦を巻き、周囲の熱気と混ざり合っていく。
「私がやる」
彼女の魔力の波動が地を震わせる。
その力の奔流に、キユとセリスも動きを止めた。
リリアナの両手が空を指す。
「みんな、生きて帰ろう」
その掌に、紅い光が集中していく。
「紅蓮天花――」
その言葉とともに、紅蓮の花が空に咲いた。
炎が、音もなく空に広がり、巨大な蓮の形を形作る。
紅い炎が幾重にも重なり、ゆっくりと黒い太陽に向かって咲いていく。
その光景を、戦場の誰もが黙って見上げていた。
キユも、セリスも、ヴォルフも、
敵の兵すらも、息を止めたまま。
その花は、まるで――
“この戦場すべての命を抱きしめるように”。
――黒い太陽は、紅の花に向かって、落ちていく。




