第45話『戦場に咲く炎』パート2:黒い太陽
カイルの魔力が極限まで圧縮され、濁った瘴気となって空を覆った。
そして、カイルは血を吐きながら叫んだ。
「獄輪陽葬!!」
天が、黒く染まった。
まるで地獄の門が開いたかのような重圧。
幾重もの魔力の輪が、空に現れ、ゆっくりと重なっていく。
それはやがて一つの黒い太陽を形成し、空中で静かに脈動を始めた。
「……なんだ、あれ……」
地上で戦っていた兵たちが、次々と手を止める。
味方も敵も、同じように、ただ空を見上げた。
黒い太陽が生み出す熱気と圧は、空気そのものを灼き、すべての色を黒に染めていく。
光が呑まれ、風が止まり、世界そのものが黒炎に囚われていく感覚――。
「砦ごと焼く気か……!? あんなの、誰も助からねぇぞッ!!」
ヴォルフが乱戦の中に叫びを轟かせた。
「止まれッ!! 全員止まれッ!! ……敵も味方も関係ねぇ!!」
その声は、戦場を貫いた。
剣を振っていた者たち、魔法を放っていた者たち、そのすべてが動きを止め、空の異変を凝視する。
「まずいの……あれは、撃っちゃダメなの!」
コヨ声を上げた。
敵の魔法兵たちも動揺の色を隠せない。
何人かが魔法を構え、黒い太陽へと撃ち放つ――が、
「はっ!」
炎の矢、雷の槍、風の刃……すべてが太陽に触れた瞬間、燃やし尽くされた。
黒い太陽には、何も届かない。
圧倒的な災厄。
あの太陽が地上へ落ちれば、砦も兵も民間人も、カイル自身さえも、全てが消し飛ぶ。
既に魔力の限界を超えていたカイルが、命を捨てて放った技。
地獄の輪が太陽の名を借りて、生者を葬る魔法だ。
そして、“それを止められる者”は、既に大量の魔力を使い果たしていた。
だが、それでも。
一人、氷柱の上で、キユが立っていた。
その表情は、変わらない。
深呼吸をし、再び構え直す。
「お前の炎は……どこにも行かせないの」




