第45話『戦場に咲く炎』パート1:黒と白
ヨルナが倒れた――それは、戦いが動く合図となった。
「セリスが風を止めた!!お前らいくぞおぉぉ!!」
ヴォルフの咆哮が砦に響き渡る。
戦況が、明確にアルテシア側へと傾く。
ヴォルフ隊と第三部隊が中央から前進、リリアナの剣が炎を纏い、前線に切り込む。
両脇からアイアス隊とヘルダス隊が突撃し、盾と魔法が敵兵を弾き返す。
「くっそ……あいつら、ヨルナ様が……!」
敵兵の士気は崩れ、陣形はすぐさま混乱へと陥った。
その裂け目を縫うように、リリアナの一撃が砦門前を貫く。
「押し切れ!」
「今しかない!」
「急げ!後衛を潰せ!」
泥と血にまみれた戦場で、命の叫びが交錯する。
しかし、その上空――砦の壁の上で、もうひとつの戦いが続いていた。
カイルと、キユ。
カイルの額には、汗が滲んでいた。
「……邪魔なんだよ、テメエ……ッ」
カイルが腕を振り上げ、黒炎を纏った魔力を荒々しく放出する。
「墜焔……!」
上空に黒炎が集まり、巨大な火塊となって圧し掛かるように形成されていく。
それは空の重力すら味方につけたような、災厄の塊だった。
「そのまま、押し潰されてろぉっ!」
黒い火塊が、唸りを上げて落下してくる――。
だが、キユの氷がそれを許さなかった。
「……雪閃」
キユの足元から立ち上がるように、鋭い氷刃が何層にも重なって駆け上がる。
落下してくる黒焔の塊を、氷が下から突き上げるように迎撃する。
ゴォオッ――!
空中で、黒と白の爆風が爆ぜる。
冷気と炎がぶつかり、互いを削り合う中で、墜焔は徐々にその力を失っていった。
カイルは苛立ちを露わにし、壁を踏み鳴らして吠える。
「死ねえぇぇ!!」
上空に両手を掲げ、喉を裂くような声を上げる。
「焦界・闇呑!!」
咆哮とともに、黒い炎の渦が天に広がる。
渦巻く熱が空気を焼き、風ごと飲み込もうとする。
だが、氷の気配がそれを迎え撃った。
「氷刻・封天!」
キユの頭上、空に巨大な印章が刻まれる。
光を纏った氷が渦を描き、静かに黒炎を覆い尽くしていく。
「なっ……! なんなんだテメエは!!」
カイルの顔が歪む。
いくら放っても、黒炎は届かない。
どれだけ喚いても、キユの氷に封じられる。
「お前の炎は……どこにも行かせないの」
低く冷たい声が、吹きすさぶ熱風の中に響く。
「黙れ、ガキがぁぁぁああああ!!」
カイルは歯を剥き、魔力を一点に集中させた。
両腕を天へと振り上げる。
「全部燃えろ……! 俺の邪魔をするやつは……! 誰でもだ、全部焼き尽くしてやる!」
その絶叫と共に、黒い魔力が空へと走る。




