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戦場の紅蓮姫  作者: エル
グランツェル編
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第44話『風を纏う刃』パート1:奇襲の刃

砂煙の中、双剣を構えた細身の影が、ゆっくりと現れる。


 


舞う金の髪。


真っ赤なつなぎ服に、青いベルト。


そのベルトには、小さな熊の顔が縫い付けられていた。


 


湾曲した刃が、日差しを浴びて光を跳ね返す。


だが、注目すべきは剣ではなかった。


彼女のまわりの風――異様に脈打ち、渦を巻き、まるで意思を持つかのように騒いでいた。


 


「……誰、あれ」


ノアが目を細めてつぶやく。


「新手か? なんか、風の流れがおかしくないか……?」


 


「近づかない方がいいわね」


ミレイアが冷静に分析しながら言った。


 


リリアナは剣に手をかけたまま、金髪の少女を凝視していた。


少女の動きは遅く、笑顔すら浮かべている。


けれど、その両手の剣には、確かな魔力の揺らぎ――いや、“風”そのものが絡みついていた。


 


「わたしのまわり、きたないのはダメだよ?」


 


ふと、少女が口を開いた。


声は明るく、どこか歌うようだった。


「きれいにしてるんだもん。ねぇ、よごさないでね?」


 


その言葉の意味を理解する前に――風が、跳ねた。


 


「くるよ!」


ノアの声と同時、ヨルナが剣を振る。

 


「わっ!?」


接近していたアイアス隊の盾が、何かに押し返されたように弾かれる。


 


続けざまに、右手の剣が振り下ろされた。


 


風衝破斬(ふうしょうはざん)!」


 


衝撃波に似た風圧が、近くにいたヴォルフ隊の兵士を吹き飛ばす。




「両手の剣に風が……! しかも、動きが全然違う……!」


リリアナが息を呑む。


 


ミレイアが鋭く声を走らせる。


「左の剣は、風で攻撃を逸らしてる。防御用!」


「右はその風を、攻撃に変えて撃ち出してるのよ! 双剣で防御と攻撃を切り分けてるの!」


 


「なにそれ、反則じゃん……」


ノアが引きつったように言った。


「近づこうとしたら左で逸らされて、踏み込んだら右で吹っ飛ばされるって、無理ゲーじゃん!」


 


それでも少女――ヨルナは、ただ楽しげに微笑んでいた。


 


「うふふっ。この子たち、風となかよしなの。だから、勝手に守ってくれるの」


 


風を“子たち”と呼び、その身にまとって踊るように跳ぶ。


左の剣がかすかに振られるだけで、剣撃が逸れ、盾が弾かれた。


右の剣が振られれば、鋭い突風が生まれ、兵士を数人単位で吹き飛ばす。


 


「防御と攻撃が、ひとつの動きに混ざってる……!」


リリアナが唇を噛む。


「剣筋を読んでも意味が無い。風そのものが“壁”であり、“刃”になってる」


 


ヴォルフ隊の前衛が、再び弾かれる。


ヨルナの双剣は振るわれたが、刃は兵士に届いていない。


届いたのは――風。


精密に制御された風の暴力だった。


 


「ヘルダス隊支援を!!」


ドランが叫ぶ。


テトの蹴りだした岩が、ヨルナへ一直線に飛んだ。


しかし、左手の剣を軽く岩に向けただけで、岩は逸れ地面へ落ちた。 


その衝撃で跳ねた泥が――青いベルトに、付いた。


 


「…………」


 


少女の表情が、凍りついた。


 


「よごれた……」


 


左手の剣を下ろし、ベルトをそっとなぞる。


その指に、泥がつく。


 


「……この子は、きれいでいてくれなきゃいけないのに」


 


その声は低く、淡々としていて――


 


「わたしが、守ってたのに……誰が、よごしたの!?」


 


叫んだ瞬間、風が爆ぜた。


剣が動くよりも早く、風が四方八方に荒れ狂った。


 


「ふざけるなあああああっ!!」


 


ヨルナの双剣に纏う風が、一気に暴走する。


左の剣の“逸らし”は攻撃に転じ、右の剣から放たれる風は、暴風そのものになっていた。


もはや制御されていない。


怒りが風となり、風が破壊となる。


 


「だめだ、今のままじゃ誰も近づけない!」


リリアナが叫ぶ。


「全員、距離を取って! 無理に接近しないで!」


 


「よごしたの、だれ!? この子を、よごしたのは――だれなのぉおおおっ!!」


 


彼女の絶叫に応じるように、風の斬撃が地を裂く。


隊列は分断され、戦場が崩れる。


 


その中で、ヨルナはぽつりと呟く。


 


「この赤い服もね……返り血が目立たないようにしてるの」


「そうすれば、きれいなままでいられると思ったのに……っ!」


 


ミレイアが目を見開いた。


「服も、ベルトも、全部“記憶”なのね……彼女の中で、大事な存在なんだわ」


 


怒りのままに風が荒れ狂うその中――


高所。砦の壁の上に、黒衣の男が姿を見せる。


 


赤黒いの魔力とともに、立つのは――カイル。


 


嵐の幕開けだった。



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