第43話『剣の咆哮』パート3:挟撃
土煙が立ち込める戦場の中心で、二つの炎が前へと進んでいた。
ヴォルフ隊の剛力と、第三部隊の魔法が道を切り拓く――だがその力をさらに強めるのは、左右から迫る“楔”だった。
「全隊、左から展開! 防衛から攻勢へ――移行ッ!!」
吼えるような号令と共に、アイアスの重装部隊が戦列を押し出した。
前線の盾兵たちが一斉に地を蹴り、突撃態勢へと転じる。
大盾を構えた兵が三人一組で連なり、一直線に敵陣へ突っ込んだ。
ぶつかる盾、砕ける槍、よろめく敵兵たち――
硬質な重みを前面に押し出しながら、アイアス隊はじりじりと戦線を押し上げていく。
「盾を開け! 突撃班、前へ!」
合図と共に、大盾の列が左右に割れた。
その間から、槍と剣を手にした突撃班が雪崩れ込む。
一斉突撃の勢いに乗り、敵兵たちはまともに耐えきれず戦列が崩れる。
左翼からの“重み”は、確かに敵陣を内側へと押し込んでいた。
その一方――
「いくのー! はさみうち、するの!」
明るく響く声と共に、戦場の右側から氷柱が立ち昇った。
ヘルダス隊が各班で戦線に散開し、魔法を次々と放つ。
「《連撃・氷裂雨》!」
凍てつく矢のような氷の破片が連続して放たれ、敵の中衛を一掃。
すかさず、別の班が風属性で加勢する。
「《風陣・突刃》!」
旋風の刃が側面を抉り、動きを止めた敵兵たちに追撃が加えられる。
さらに、三人の魔法兵が同時に地を打った。
「せーのっ!」
「どかーん!」
「もいっこいくの!」
「《爆走・火走陣》!!」
炎の帯が地を這い、敵の退路を焼き払う。
左右両翼――
アイアス隊の硬質な防壁が敵の動きを止め、ヘルダス隊の属性攻撃がその隙間を穿つ。
これぞ――挟撃。
敵陣は明らかに混乱していた。
前線の指揮官らしき男が叫ぶ。
「お、おちつけ! 左右はまだ――」
その声が終わる前に、再び氷の柱が飛来する。
「《氷襲・斬断槍》!」
地面から斜めに伸びた鋭い氷が、敵の膝元から突き上げる。
突き刺された敵兵が倒れる隙に、風が唸った。
「《風陣・弧刃》!」
旋回するような魔風が敵兵を巻き込み、その場に崩れ落とす。
「やったのー!」
「はさみうち成功!」
「もっといくのー!」
どこか楽しげな声すら響く中で、彼らの魔法は容赦なかった。
そして中央。リリアナたちの前では――
「……崩れた。今しかないわね」
ミレイアが冷静に呟く。
リリアナは一瞬だけ頷き、前を見る。
すでに彼女の剣は炎に包まれていた。
「行くよ。全部、守り抜く――!」
剣を掲げて、前線へ再び踏み込む。
そして――三つの波が一つになった。
アイアス隊の盾、ヘルダス隊の魔法、ヴォルフ隊と第三部隊の猛攻。
戦場の音が一気に高まり、剣と魔法が交差する。
アルテシア軍は確かに、敵陣を押し返していた。
敵の隊列は崩れ、後衛までもが次第に戦線へと引きずり出されていく。
だが――
突撃の最中、ティオが空を指差した。
見上げれば、敵陣の上空にうねるような赤黒い魔力の渦。
「……あれは……!」
ミレイアが目を細め、即座に叫ぶ。
「報告にあったカイルの魔力よ!全員警戒して――!!」
そのとき。
――ズウゥゥゥン。
突如、戦場前方から重く唸るような地響きが響き渡った。
砂煙を巻き上げるように何かが飛んでくる――
「っ、飛んできた!? 人……!?」
「ハルド……!?」ミレイアが目を見開く。
雷を纏った槍を使っていた、ヴォルフ隊の突撃兵――その大柄な体が宙を舞い、リリアナたちの正面に向かって一直線に吹き飛ばされてくる。
「クラウス、前!!」
「っ、はいっ!!」
ドンッ!
クラウスが盾を捨て、全身で受け止める。
普段から衝撃に耐える訓練をしているクラウスは、膝をつくことなく、その衝撃をなんとか止めた。
「う……ぅ……わ、わりぃ……」
倒れ込んだハルドが、血混じりの声でうめく。
「な、なに……今のは……」
リリアナの言葉が風にかき消される。
誰もが、前方に目を向けていた。
ハルドが飛んで来た方向――そこに、ひとり。
砂煙の中、双剣を構えた細身の影が、ゆっくりと現れる。
舞う金の髪、真っ赤な服装に、青いベルト。
湾曲した刃が、日差しを浴びてきらめいた。




