第43話『剣の咆哮』パート2:剛剣
風が唸りをあげる戦場。
黒き軍勢を切り裂くように、重い足音が地を打った。
「……道をこじ開けろ」
唸るようなヴォルフの声。
その太い腕が握る剣は、大剣というにはあまりに巨大で、斬るというより叩き潰すための獣の牙のようだった。
前方、盾を構えて並ぶ敵兵の壁――
ヴォルフは一歩踏み込み、ためらいなく剣を振り抜いた。
風を裂く音と共に、大剣が敵陣の盾列を襲う。
盾ごと敵兵が吹き飛んだ。
金属が砕ける音、悲鳴、土煙――それらが一瞬で混ざり合う。
ヴォルフの肉体が動くたびに、戦線が軋んだ。
獣の咆哮のように、その一撃は地を震わせる。
「ヴォルフ隊長に 続けぇッ!!」
ガレンがその声に応じた。
「止まってんなよ、ジジィども!」
彼が構えた大剣が、風を切るように振り回される。
広範囲を薙ぐように回転し、敵兵の隊列をまとめてなぎ払った。
四方八方に飛び散る火花。敵兵たちは反応しきれず、剣ごと弾き飛ばされる。
その斬撃は、まるで風車のように戦場を削っていく。
「敵、隊列崩れたぞ! 今だッ!」
響くのは雷鳴――否、槍の雷だった。
ハルドが前に飛び出し、槍を構えたまま走る。
雷を纏ったその槍は、空気を焦がしながら一直線に突き出された。
「《雷槍突》!!」
雷光が槍先から奔り、敵兵の胸を貫く。
連鎖するように周囲に電流が走り、二、三人が同時に地面へ崩れ落ちた。
「次ッ!!」
止まらない。
ハルドは槍を引き抜き、素早く次の構えへ移る。
踏み込み、突き、また一人を雷と共に貫く。
その動きはまるで、雷そのものが人の形をとったかのようだった。
「敵の密集地を抜ける! 隊列、左へ展開!」
ヴォルフの指示が飛び、兵たちが即座に反応する。
盾兵が左右に散開し、突撃兵がその間を駆け抜けていく。
ガレンの剣は前方の敵をなぎ倒し、後続が空いた隙間に流れ込む。
ハルドの雷槍が側面の敵を牽制し、敵陣の整列を乱していく。
「ヴォルフ隊、右側突破、完了間近!」
兵士の声が飛ぶ。
視界の先、中央では第三部隊が魔法による破壊の道を切り拓き、左右へはアイアス隊、ヘルダス隊が徐々に展開を開始している。
まさに――三方向からの突撃が今、成立しつつあった。
「火、上手くなったじゃねえか」
ヴォルフはリリアナたちの進撃を遠目に見ながら、ニヤリと唇を吊り上げた。
「なら……俺たちも、手加減はしねぇぞ」
再び剣を振るう。
重厚な鉄の音が響き、盾ごと敵兵が地面に突き刺さる。
剣を地に突き立てたヴォルフの声が、突撃中の味方へと響いた。
「止まるな!! この剣で、すべて切り開く!!」
その言葉に、兵たちが声を上げる。
「「おうっ!!!」」
ガレンが最前列で敵の隊長らしき男と激突し、剣と剣が激しく火花を散らす。
「お前じゃ、俺は止めらんねえよ」
一閃。
横薙ぎに放たれた大剣の衝撃で、相手の体が弾かれた。
「次!!」
間髪入れず、ハルドがその隙を貫く。
「《雷槍突》!」
二重の連携が、まるで慣れた舞のように戦場を制していく。
彼らはヴォルフ隊の中でも、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の“剛”の隊。
その剛力が、今まさに砦への道をこじ開けていた。
確実に前線を押し上げている。
そして、その突撃の炎は――
砦へ向かってさらに燃え広がろうとしている。




