第43話『剣の咆哮』パート1:開戦の火花
中央軍の陣列、その最前に立ったリリアナは、敵兵を一人斬り払い、前方の要塞を見据えていた。
「……行くよ」
呟いたその声は、熱を孕んでいた。
リリアナが前に一歩、踏み出す。
その瞬間、彼女の周囲に炎の輪が浮かび上がる。
「《炎輪舞》——!」
爆ぜたのは五つの火輪。地を滑るように前へ、敵陣目がけて走る。触れた草は燃え上がり、立ち上がった敵兵を巻き込んで爆発した。
その威力に、前列の敵が崩れたのが見えた。
「突破口、開いた!」
その声に応じるように、セリスが隣で左手を天へ掲げる。
稲妻が指先に収束し、次の瞬間、雷光が地面を走った。
「《雷閃》!」
雷の刃が直線に走り、敵の防御陣を貫いた。
光に焼かれた魔法兵たちが、悲鳴も上げずに倒れていく。
続けて、ルネが前へ進み出る。両手を地にかざし、冷たい声を吐く。
「……凍えとけ」
地面から鋭く白い蔦のような氷が這い出した。
《氷棘》と名付けられたそれは、茨のように絡まりながら敵の脚を奪い、斬りつける。
前方の数人が、氷に貫かれてその場に沈んだ。
「この三人で……一気に道を開け!」
リリアナが叫ぶと、背後から走る足音が続いた。
ティオが弓をつがえ、抜けてきた敵兵を正確に射抜く。
風に乗せた矢は、喉元に吸い込まれるように命中した。
「うん……今日の風、いいかんじだよ」
その横ではロークが双剣を構えて突進。
剣を振るたびに金属音が鳴り、敵の防御を打ち砕いていく。
「数は多いけど、精度が低ぇな! これなら押し切れる!………あ、きらーん忘れてた」
ノアも背後から敵兵の隙を突いて跳びかかる。
素早い動きで足元を崩し、短剣で急所を抉った。
「背中、がら空きだよ?」
後方では、クラウスが巨大な盾を構えてリリアナたちの右側を守る。
敵の投擲をすべて受け止め、進路を確保。
「この道を通してください! 前衛部隊、続行可能です!」
その傍で、ラシエルが杖をコツンと鳴らし、水を操って敵の矢を逸らす。
「進行妨害、これで片付きましたね」
ミレイアは冷静な口調で、支援のための風を流し続ける。
小規模ながら、確実に戦線の隙間を埋める動きだ。
「後方連携、順調よ。リリアナ、あなたのペースで進んでいいわよ」
「わかった。私たちはこのまま前へ!」
地面が焼け、氷が砕け、雷光が走る。
第三部隊の攻撃はまさに“重奏”だった。
属性も戦術も異なる彼らが、互いの動きを読んで継ぎ目なく次の一手を撃ち込んでいく。
陣の前方、敵が防御を立て直そうとするが、その間を与えない。
炎、雷、氷――破壊と足止めと連撃。
三つ巴の魔法が第三部隊の牙となって、前衛を切り開く。
ロークが笑いながら叫ぶ。
「うち、こんなに強かったか!?」
「ふふ、進むペースがヴォルフ隊とほぼ同じね」
空はさらに赤みを増し、砦の姿が徐々に近づいてくる。
だが、第三部隊の動きには迷いがない。
リリアナは、足元の小石を一つ蹴り飛ばすように前進した。
「ここからが――本当の戦場」
炎が、また一つ咆哮するように舞い上がった。
その炎の輪の中に、仲間たちの足音が重なる。
この戦いの先にあるものが、どれほどの重みを持とうとも――
彼女たちは、止まらない。




