第42話『決戦前線』パート2:前進開始
――夜が明けきらぬ、くすんだ空の下。
要塞前の平地を、分厚い陣形がゆっくりと、だが確実に進んでいた。
「陣形維持! 盾、構え直せ!」
アイアスの号令が響くと、盾兵たちが間髪入れずに動き、鉄壁を組み直す。
列は一糸乱れず、突き上がるような地響きを残して、まるで大地ごと押し出すように前進を続けていた。
その背後を守るように、ヘルダス隊が続く。
魔力を帯びた風が舞い、足元から氷が這い、空気が熱と光に染まる。
「くるの! 火の玉、五つ!」
キユの声に応じて、隊の一部が素早く動き、迎撃体勢に入った。
「撃ち落とすの! せーのっ!」
瞬間、空で何かが炸裂するような音がした。
飛来していた火球が、見えない壁に弾かれ、拡散する。
それでも、いくつかの魔法が抜けてくる。
「防御態勢、後列!」
「左斜め! 三発!」
アイアス隊の盾が、地を擦りながら広がる。
重厚な金属の縁が鳴り響き、魔法の衝撃をそのまま受け止める。
爆音と共に火花が散るが、陣形は崩れない。
「よし、進軍再開! 一歩ずつでいい、止まるな!」
「応っ!」
まるで、ひとつの巨大な生き物のように、部隊が歩調を揃えて前進する。
飛び交う魔法に怯む様子はなく、ただ確実に、砦へと向かっていた。
後方でその様子を見守るリリアナ隊。
「……すごいね、あれ」
リリアナが呟く。
「まさに鉄壁。あれを崩すには、正面突破は無理ですね」
ラシエルが冷静に答えた。
「ヘルダス隊の迎撃がなかったら、あんなに綺麗に進めてない。相当な連携だよ」
ルネが真剣な表情で言う。
「撃ち落としながら、前に出るって……普通、どっちかしかできねぇもんな」
ロークの言葉にミレイアは小さく頷きながら空を仰ぐ。
「でも……向こうも、ただ撃ってるわけじゃないわ。見て」
視線の先、要塞の上部――塔のような建物の上宮に、揺らめく光が集まり始めていた。
一色ではない、複数の魔力が重なるような奇妙な気配。
風がざわめき、地の底から何かが脈打つような感覚が走る。
「みんな!まぜるのー!!」
「まぜるのー!」
「はいなのー!」
キユの号令で、ヘルダス隊は慌ただしく隊列を組み直した。
リリアナが空を見上げたまま、息を呑む。




