第42話『決戦前線』パート1:開戦前夜
――夜明け前。
まだ陽は昇っていない。
空の端にわずかな赤みが差し始めているが、あたりは濃い蒼のまま。
吹き抜ける風が荒野の草を揺らす。
広大な平地に張りつめた沈黙が広がり、ただ足音も声もなく、軍勢は静かに待っていた。
中央の小高い丘――そこに、4人の隊長たちが集っていた。
ヴォルフ・グランツ。
アイアス・ベネディクタス。
キユ。
そして、リリアナ・アーデル。
月光を背に、全員が戦装束のまま立つ。
彼らの背後には、それぞれの部隊が控えている。
「砦に近づくには……まず、盾で道を開く必要があるな」
口を開いたのはヴォルフだった。低い声に、少しだけ笑みが混じる。
この戦場で、久々に“全軍が揃った”ことを実感していた。
「それなら、我が隊の出番だ。盾を構え、守りながら進軍する」
アイアスの声は凛として大きく、まるで兵の前で檄を飛ばしているようだった。
その言葉に、遠くで待機していた彼の部隊から、盾を鳴らすような微かな音が響く。
「敵は……きっと、魔法でこちらの足を止めようとしてくる」
リリアナが、夜風の中で静かに言った。
王国を守ってきた猛者達と並び、戦場に立つ顔をしていた。
「ヘルダス隊にお願い。前線の魔法攻撃、全部止めて」
キユは、短く頷いた。
「だいじょうぶ、全部こおらせるの。まかせて」
その言葉に、風が一瞬止んだような気がした。
リリアナは小さく笑って応えた。
「頼もしいね」
「じゃあ、進軍の順は決まりだな」
ヴォルフが視線を上げる。
「まずはアイアス隊が盾で前進。背後にヘルダス隊がつき、飛んでくる魔法を撃ち落とす。敵の前衛が近付くまで、俺たちと第三部隊は温存だ」
「了解。守備陣形はすでに組ませてある」
アイアスが力強く言い、腕を組む。
「……第三部隊も、全員準備できてる」
リリアナは振り返らず、ただ前を見つめながら告げる。
「前に出るときがきたら、躊躇なく動く。
私たちの剣は、命を守るための剣だから」
キユがぱちぱちと目を瞬かせ、にっと笑った。
「リリアナ、かっこいいの」
「紅蓮姫、だったか?」
ヴォルフのその呟きに、隊長たちの間にごくわずかな笑いが生まれる。
それはほんの一瞬。
次の瞬間には、また戦場の沈黙が戻っていた。
やがて――遠く、空の端に朝の赤が広がる。
草が揺れ、空気が変わる。
「陽が、昇る」
アイアスの背後で、誰かが呟いた。
それは、戦の始まりを告げる風。
命の行方を左右する、赫き炎の幕開けだった。




