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戦場の紅蓮姫  作者: エル
王都編
222/227

第41話『進軍』パート4:目的地

風が唸る。


空は鈍く曇り、荒野を吹き渡る砂が、行軍の列の足元を白く染めていく。


 


中央軍――第一部隊と第三部隊が連なって進むその様は、まさに静かなる戦の幕開けだった。


 


前列をゆくのは第一部隊。


重厚な鎧と盾を備えた兵たちの動きは揃い、地面を踏みしめるたびに、鈍い音が隊列を揺らす。


その後方に続くのは、リリアナ率いる第三部隊。


異なる歩幅と武装が混ざる中、それでも全体は乱れず、訓練された緊張感が保たれている。


 


リリアナが胸元のポケットから一通の封書を取り出す。


 


「……作戦の内容を、今のうちに確認しておこう」


 


その言葉に、ミレイアが小さく頷く。


 


「ハウゼン将軍から渡された封書ね」


 


リリアナは部隊内に声を飛ばす。


 


「第三部隊、作戦内容を共有する! 歩きながら聞いて!」


 


全体が一拍だけ速度を落とし、視線が彼女に集まる。


リリアナは、封書の封を破った。


 


「――カイルはグランツェルの要塞都市に立て籠もっている」


 


乾いた風が封書を揺らす中、リリアナの声だけが鮮やかに響いた。


 


「要塞の地下に民間人を監禁、労働力として使っている可能性が高い。防衛陣形は厚く、極大魔法の行使も想定されている」


 


ノアの表情が、わずかにこわばった。


 


「やっぱり、まだ連れてかれてる人がけっこういるんだね……」

 


「中央軍、全軍が出たってことは、決着をつけなければいけないということね」


ミレイアが静かに言い添えると、リリアナは再び読み上げた。


 


「中央軍の作戦は三方面からの挟撃。東に第四部隊、西に第五部隊が回り込み、私たちと第一部隊が正面から突破する」


 


「……正面か」


 


セリスの口調には、ひるむ様子はなかった。むしろ、どこか愉快そうですらある。


 


「カイルが出てくるなら、迎え撃つだけ。炎も、剣も、ちゃんと研いできたし」


 


ロークは手元の双剣を見て、小さく息を吐いた。


 


「地下に囚われた民……あいつらを置いて引けるわけねぇな。突破して、ぶち壊すしかねぇ」


 


そのころ、第一部隊でも同様の作戦確認が行われていた。


 


「……リリアナ、ずいぶん強くなったらしいじゃねぇか」


ガレンが口を歪めて笑うと、先頭を行くヴォルフが、短く答えた。


 


「見りゃわかる。背中の迷いがなくなってた」


 


「へぇ、ちびっこがか」


 


「……砦なんぞ壊れてもいい。だが民は、絶対に守れ」


 


重々しい言葉に、ガレンが「おう」とだけ返し、歩調を整える。


 


すぐ隣――盾を掲げた一団では、アイアスの重低音が響いた。


 


「防衛線を抜く! 厚かろうが関係ない! 全員、盾を構えろ!!」


 


「応ッ!!」


 


即応する隊列。まるで一つの壁のように盾が持ち上がる。


隊長の号令があれば、それだけで動く。


それがアイアス隊だ。


 


そして、最後列を担うヘルダス隊では、小柄な兵たちがそれぞれ顔を上げていた。


 


「……キユちゃん、どうするの?」


 


「ひと、ぜんぶ助けるの。カイルはこおらせるの。ぜったいなの」


 


イチが拳を振り上げる。


 


「ヘルダスつよいのー! いっくぞー!」


 


「キユちゃんであります!」と叫ぶのはニオ。


 


賑やかな声が、重い行軍の空気に小さな風を起こす。


 


そして、再びリリアナは顔を上げた。


 


地平線の向こう。


黒く霞む一点に、要塞の影が浮かんでいる。


まだ遠い。


だが、確かにそこにある。


 


(……民を、助ける。絶対に)


 


心の奥で燃える決意だけが、進む道を照らしていた。



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