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戦場の紅蓮姫  作者: エル
王都編
221/225

第41話『進軍』パート3:出陣の刻

朝靄あさもやがうっすらと広がる灰の砦の広場に、軍鼓の音が鳴り響く。


その合図に応じるように、整列を終えた兵たちが一斉に背を伸ばした。


風が吹くたび、掲げられた旗がなびく――金縁の白旗は中央軍第一部隊の証、深紅の旗には紅蓮の剣章、第三部隊・リリアナ隊が誇る印。


高台に立つのは、灰の砦の将――ハウゼンだ。


その背筋は真っすぐに伸び、見下ろす視線には一切の迷いがなかった。


 


「中央軍、聞け――!」


 


低く、太い声が空気を切り裂く。


その瞬間、場にいた全員の目が彼に向けられた。


 


「この出撃は、敵を討つための行軍ではない。

 ――民を、命を、取り戻すための戦いだ」


どこか遠くで、金属音がカン、と鳴った。


その音が、広場に広がる熱の胎動を告げた。


 


「奪われたものを取り返す。踏みにじられた命の重さを、あの暴君に叩き込む。

 我ら中央軍は、そのためにここに立つ――!」


 


兵たちの喉が鳴る。


緊張。


昂揚(こうよう)


誓い。


そして、怒り。


 


ハウゼンはそれを確かに受け止め、叫んだ。


 


「進撃の槍を握れ!剣を振るう者は、命を背負え!」


 


怒号にも似た軍将の檄に、いよいよ各部隊が反応を見せはじめる。


 


まず動いたのは、ヴォルフ隊だった。


ヴォルフが、隊の前に一歩進み出る。


 


「第一部隊、久々に――“全員揃ってる”じゃねぇか」


 どこか冗談めかして笑ったその声に、隊員たちが小さく笑いをこらえる。


 


「ったく、昔はこんな日を何度も見てたがな。今じゃ珍しい光景だ」


 


 槍を肩にかけたハルドが、「今回は派手にいきましょう」と呟いたのを受け、ヴォルフは口の端を上げて言った。


 


「上等。やるときゃやるのが第一部隊だ」


 


周囲の兵たちが各々の武器を持ち上げ、ざわりと音を鳴らす。


そこに漂うのは、まさに“猛者たちの余裕”だった。


 


続いて動いたのは、鉄壁の守りを誇る――アイアス隊。


ずらりと並んだ重装盾兵たちの前で、一際大きな盾を背にした男、アイアスが吼える。


 

「一歩も引かねぇ、それが俺たちだ!!」



咆哮。


それは叫びではなかった。ただのスローガンでもない。


命を守り、戦場を支える者としての誇りが詰まった、一撃のような声だった。


 


「俺たちが崩れたら、全軍が死ぬぞ!!」


 


ドラン怒鳴り声とともに、全兵が盾を突き立て、同時に足を踏み鳴らす。


 ドンッ――という重低音が、地面から突き上げた。


 


「勝利の先に、護りし者の名が刻まれるッ!」


 


儀礼の一節を叫び、彼らは誰一人微動だにせずに整列を保った。


まるで一枚の壁のような統率。


その硬さと重さが、見る者に圧を与える。



 


一方、小さな身体で元気よく動いていたのは、ヘルダス隊の子供たちだ。



「いくのー!」


「負けないのー!」


「絶対勝つのー!!」


 


ぴょこぴょこと跳ねるように駆け回り、けれどそれぞれしっかりと杖や装備を携えている。


 

キユが皆の前に立ち、


「ヘルダス族の魔法、最強なの!!」


と片手を上げて言うと、周囲の隊員が


「わー!」


と一斉に返す。





ハウゼンがそれを見て、わずかに目を細めた。


 

「……頼もしいな、天才どもめ」


 

苦笑とも称賛ともつかぬ声を漏らしながら、その視線は次へと向かう。


 


そして、最後に静かに前へ出たのは――リリアナ・アーデルだった。




「私たちは、奪うために行くんじゃない。

 命を守るために、剣を取る」


 


 周囲の第三部隊がぴたりと息を止めるように、リリアナの言葉に集中する。


 


「行こう、命のための(つるぎ)として」


 


その宣誓のような一言に、隊員たちは頷き、ロークが笑みを浮かべる。


 


「了解、隊長」


「準備は整ってるよ」


「俺たちもちょっとは強くなったしね」




魔法使いも剣士も、誰一人として迷いはない。


それぞれが“守るための戦い”を胸に抱き、この出撃を受け止めていた。


 


そして、再びハウゼンの声が広場に響き渡る。


 


「中央軍、出陣――!!」


その一喝とともに、全軍が一斉に動き出した。


足並みはそろい、旗が振られ、戦場への進軍が始まった。



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