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戦場の紅蓮姫  作者: エル
王都編
203/209

第38話『紅の花はまだ蕾』パート3:測定

王都南部、石造りの軍施設群を抜けた先に――《魔法技術研究所》はあった。



「ようこそーっ! お待ちしてました第三部隊の皆さーん!!シアネ様から話しは聞いてます!!」



  門が開くと同時に、派手な赤髪の女性が飛び出してきた。白衣の下からは軍服の一部が覗き、名札には「局長 ルーディア・レムナート」の文字が踊っている。



「そこの小さい隊員さんはヘルダス隊だね!?」



挨拶こそ丁寧だったが、その目は既に落ち着きをなくし、周囲を興味深そうに見回していた。


 


「中央軍ってだけでテンション上がってるのに!極大魔法使える人いるんだってね! もう楽しすぎ!」


 



「さ、騒がしいな……」


「うちも騒がしさじゃ負けてないでしょ」


ルネが小声で呟くと、後ろでノアが笑った。


 


ルーディアは隊列の前をくるくる歩きながら、順に一人ひとりへと視線を巡らせていた。


やがて、ある一点で、彼女の動きが止まる。


 


「……あ、ちょっと待って、それ――」


指差したのは、セリスの左手。


 


「なにこれ!? 触っていい!? いや、触るね!? ありがとう!」


 


セリスが言葉を発する前に、ルーディアは彼の手をがしっと両手で包み込む。


 


「うわっ、この手袋、導管ラインの再編密度がやばい……反応の変位もほとんどない……どこの設計? 誰の!? 設計図ある!? いま解体して見てもいい!?」


 


「やめてください。それ、作るのに二ヶ月かかりましたから」


ラシエルが即座に否定すると、ルーディアはぴたっと動きを止め――


「……じゃあ、教えて……! どうやって作ったの!?」


と、瞳を輝かせた。


 


「それは……私とミレイアさんで共同で作りました。有り余る魔力のぶっぱ制御手袋です」


ミレイアが優しく補足する。


「リリアナの分も作りたかったのだけど、時間が無くてまだ手付かずなのよ。協力してもらえるなら、一緒に作ってもいいわよ?」


 


「うっわ、最高。そういうの大好物!あとで全部、聞かせて!」


 


次の瞬間、ルーディアは再びセリスの手にがっつり顔を近づけ、

なんと、手袋に鼻を近づけて――


「んんん~~、この革の香り! 魔力が染み込んだ匂いって、こんな……!」


 


「セ、セリスがぁ……!」


 


ノアが半分泣きそうな顔でラシエルの袖を引っ張る。


「ちょ、ちょっと近い近い! さっきからあの人距離感おかしいよ!? ていうか匂い嗅ぐってなに!?」


 


「ふふ……なかなか見応えのある絵ですね」


ラシエルは不敵に微笑みながら、じっとその様子を見守っていた。


 


そのまま勢いよく施設内に案内され、一行は白を基調とした大部屋に通された。


魔力測定円盤、魔導放出視覚化装置、反応分布台……軍事訓練施設では見たことのない、精密かつ整然とした機材が壁際に並んでいた。


 


「ここは“魔力量”だけじゃなく、実戦向けの魔法制御能力も見るの!」


赤髪の局長――ルーディア・レムナートが装置の間をくるくると動きながら、説明を始めた。


 


「今日の測定項目は3つ!」


 


1本目の指を立てながら、彼女は声を張る。


 


「ひとつ、魔力量! どれだけ大きな魔力を持ってるか、ね!」


「ふたつ、魔力の放出安定性! 出すときに暴れたり、ムラが出たりしてないかを測ります!」


「そして最後、技の形成精度! これは、魔力を“どういう形”で出せるか。“花を描く炎”とか、“線のまま走る雷”とか。技の作り込みを見るの!」


 


ミレイアが後ろで頷く。


「なるほど……制御技術の評価が重視されているのね」


 


「そのとおり! 魔力量が多くても、技にできなければ意味ないから!」


ルーディアは誇らしげに言い切り、それから視線を皆に向ける。


 


「で、“極大魔法”使える人って、だれ?」


 


一瞬の静寂のあと――セリスが無言で手を上げた。


その隣で、キユもにこっと笑いながら手を挙げる。


 


「……でも、いまはダメなの。まだケガしてるから。今日は、見るのー」


自分の腕の包帯をくるくると示しながら告げた。


 


「そっか、えっーと、ありがとうキユちゃん。偉い偉い!」


ルーディアがリリアナ隊、ヘルダス隊の名簿を見ながら感心したように頷き、すぐに前を向く。


 


「じゃあ、セリスくんからいきましょう!」


 


ルーディアが測定装置の台座を軽く叩きながら、声を上げた。


「じゃあまずは、“魔力量の測定”からいきましょう!」


彼女が示したのは、楕円形の黒い金属盤。その中心には魔導式のリングが複数刻まれており、淡い光が脈打っている。


 


「これは“深度探査式魔力量測定装置”。

あなたの身体に微細な魔導波を通して、体内にどれだけ魔力が蓄えられてるかを覗く……って感じね。力まなくていいから、手を乗せて」


 


セリスが静かに頷き、台座の中央にそっと手を置いた。


 


「……おおおおお……来てる来てる来てる!

最深部の魔力核まで反応してる! しかも反応の濃度が異常!」


 


ルーディアが手元の水晶モニターを覗き込むと、魔力量を示す円グラフがぐんぐん拡大していく。


「こ、これは……通常の兵士の約七倍。

いや、平均値で換算したらもっとかも……!」


 


リリアナたちが思わず息を呑む。


「……これが、セリスの魔力」


 


ルーディアが顔を上げた。


「ええ。とんでもない魔力。制御用の手袋がなかったら、下手したら自分の腕ごとぶっ飛ばしてるかもよ?」


セリスは無言で視線を落とし、小さく頷いた。





 


マリアが驚いたようにセリスを見る。


「そんなに……」


 


セリスは気にした様子もなく、無表情のまま立っていた。


 


「はい、じゃあ次は魔力の放出安定性!」


ルーディアが指示を出す。


「今度は、雷をゆっくり流して。荒れたり、弾いたりしないように」


 


セリスは頷くと、手のひらを開いた。


 


じわり――と、指先から雷が流れ出す。


糸のように細く、なめらかに、ブレることなく一定の強さを保っていた。


 


ルーディアはじっと見つめ、ゆっくりと拍手をした。


 


「うん。安定性は満点。ほとんど揺らぎがないし、出力変化もない。完璧!」


 


最後の項目に移る。


「次は技の形成精度。魔力で“意図的な形”を作れるかどうかを見るの!」


 


「セリスくん、指先でいいから、線状の雷を……何か形にしてみて」


 


セリスは無言で、指先に雷を灯らせた。


淡い紫電が静かに弾け――次の瞬間、空間に“しなやかな四肢”が浮かび上がる。


 


それは、まるで“雷の虎”。


尾を揺らし、牙を見せ、電光の獣がそこに存在するかのように、空中に姿を刻んでいた。


 


「……雷で、動物を……?」


ミレイアが驚いたように目を見開く。


 


「虎……それも四肢のバランスまで精密に」

ラシエルが低く呟く。


 


ルーディアは両手をバシバシ叩きながら叫んだ。


「ちょ、ちょっとすごいわよ!? この形成精度……魔力の線が一切乱れてない!あんな形状、普通は崩れるのに……!」


 


「つまり……セリスくんは、魔力量・安定性・形成精度のすべてが上位評価」


 


セリスはただ、小さくまぶたを伏せただけだった。雷の虎が、彼の指先からそっと消えていった。



 


だが、その顔にほんの少しだけ曇りが差す。


 


「ただし……魔力量が多すぎて、“全力放出”を繰り返すと筋損傷のリスクがあるわ」


ルーディアがセリスの手袋をちらっと見る。


「だから、それを補うための制御具――つまり、あの手袋ってわけね」




セリスが静かに頷いた。


 



「でも、ほんっとに見事な制御よ。ありがとう、セリスくん」


 


セリスはゆっくりと装置から降りた。




セリスが装置から降りたそのとき、ルーディアは一度だけ真剣な目を彼に向ける。


「セリスくん。あなたの魔力は、まるで溢れ出しそうな大河みたい。だけどそれを、壊さず、荒れさせずに使うには――“出力の切り分け”が大事になるの」


彼女は指を三本立てながら、わかりやすく言葉を続けた。


「全力・七分・三分――そうやって魔力を段階的に運用できるようになると、長期戦でも無理がきくようになるの。今は瞬発的には完璧だけど、戦場ってそれだけじゃ足りないから」


 


セリスはしばし黙っていたが、やがて小さく頷いた。

 


ルーディアは満足げに笑みを浮かべる。


「あなたならできる。あの手袋も、すっごくいい仕上がりだけど、それに頼らない運用も試していきましょ?」


 


「……わかった」


 


短く返したその声には、どこか芯のある落ち着きが宿っていた。



そして、次に測定に呼ばれたのは、ラシエルだった。


 


だがその一歩手前で、ノアがこっそりと耳打ちする。


 


「ねえ……私とクラウスとティオって、なにかするの?」


 


ミレイアが軽く笑って答えた。


「魔力量が少ない人は、待機ね。魔導測定器って、ある程度の魔力がないと反応すらしないのよ」


 


「……なるほどね……」


ノアが肩を落とし、クラウスは黙って頷き、ティオは静かに椅子に座っていた。


 


ラシエルがゆっくりと測定装置に歩み出す。





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