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戦場の紅蓮姫  作者: エル
王都編
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第36話『王都の動き』パート1:民の声

「以上をもって、王都中央広場における第三部隊任命の布告を終了します!」


式官の声が高らかに響き、礼砲が再び空を割った。


リリアナの演説が終わったあとも、しばらく拍手と歓声は鳴り止まなかった。



「紅蓮姫!」「ありがとう!」「第三部隊!」



群衆の中から湧き上がる声が、王都の石畳を震わせるようだった。


だが、その興奮の渦の中、式官の誘導により儀式は整然と進行する。


リリアナはゆっくりと剣を納め、振り返る。


ミレイアが静かに一礼し、ノア、ラシエル、セリス、クラウス、ティオ、マリア、ルネもそれぞれ深く頭を下げた。


ヘルダス隊の三人も、肩を並べて並び、背筋を伸ばしていた。


全員が壇上を降り、整列した状態で演壇前から退場していく。


隊の者たちはそれぞれの間合いで群衆に会釈しながら、広場を背に歩き出す。


 


通りの角を曲がった、そのときだった。


「リリアナ!」


甲高い声が、後方から響いた。



振り返ると、雑踏の中をかき分けて走ってくる影があった。


「ベラさん!」


リリアナが驚きと笑みを混ぜた声を上げた。



その隣には、ユーゴもいた。


「演説、ちゃんと聞いてたぞー!」



ベラが息を切らしながら笑った。


「昨日はさ、なんか言いそびれちゃって……でも、今日のあなた見て、こっちまで泣きそうになった」



「俺、正直“紅蓮姫”って聞いてもピンと来なかったけど……今は分かる気がする。お前、すげぇよ」


とユーゴが真顔で言った。



「ふふ……ありがと。でも、私ひとりでやってるわけじゃないし。隊のみんなと、あの日のことがあったから、今があるんだと思う」



リリアナの言葉に、ベラが表情を緩める。



「あなたの言葉、王都のど真ん中でちゃんと響いてた。あたしたちだけじゃなくて、周りの人も、ほんとに聞き入ってた」


ちょっと、照れるなぁ……でも、嬉しいよ。来てくれてありがとう」



リリアナが笑うと、ベラが真剣な目で続けた。



「村には、まだ帰れない。でもね、あなたの言葉で、私たちにも前に進む勇気ができた。今日、ここで聞けてよかった」


「……あなたの戦いは、私たちの希望でもあるから。ちゃんと、それだけは伝えたかったの」



リリアナは、ゆっくりと頷いた。


「うん。私たちも絶対に、守ってみせる。命も、帰る場所も」



「俺たちには何にもできないけど……せめて、応援はさせてくれ」


ユーゴがそう言って、拳を軽く差し出す。



リリアナがそれを小さく打ち返すと、ユーゴは笑った。


「じゃあ、また。戦場じゃなくて、普通の場所で会おうな」



「うん。絶対に」


 


その背後で、小さな女の子が花を一輪、リリアナに差し出した。


「これ……拾ったやつ。お姉ちゃんにあげる」


「ありがとう。すっごく綺麗だね」


リリアナが膝をついて受け取ると、女の子は恥ずかしそうに頷き、笑った。


 


やがて式官が後ろから近づき、小声で声をかけた。


「隊長、そろそろ屋敷へご案内いたします」


「……うん、行こう」



リリアナは立ち上がり、もう一度、ベラたちに向き直る。


「本当にありがとう。きっとまた会おうね」



ベラとユーゴがそれぞれ軽く手を振り、第三部隊は再び歩き出した。



王都の道を、静かに屋敷へと向かっていった。




 


王都の石畳を抜け、屋敷に戻った一行を出迎えたのは、礼装を着たままの使用人だった。



「皆さま、おかえりなさいませ。屋敷内の準備はすでに整っております」



ミレイアが軽く会釈を返し、リリアナは無言で頷いた。



使用人は一歩前に出ると、小箱の中から丁寧に封を施された文書を差し出す。



「それと、こちらに。陛下より、第三部隊への伝達書でございます」


 


リリアナが受け取り、封を切ると、中には簡潔な文面が記されていた。




『“中央軍第三部隊、及び同行する第一部隊は、王命により一定期間、王都に留まり、準備および調整を行うことを許可する”

“武具、施設、その他必要な支援については、特例として使用を認める”』




 


「ふふ……なるほどね」


ミレイアが隣で微笑みながら言う。


「つまり、武器庫の件も含めて、“しばらく自由にしていい”ってことなのよ」




「好きにしていいって、言われてもな……何すればいいんだか」


ルネがぼやくと、マリアが優しく答えた。



「明日は、キユ隊長の診察があるよ。みんなで一緒に行く?」


 


「じゃあさ、キユちゃんの診察のついでに――みんなでロークのお見舞い、行こっか」


リリアナの言葉に、隊の空気がふっと和らぐ。



「うん、いこー!」

「おきてるかなー」

「おかし、もってこっか?」とヘルダス隊。


 


そうして一行は、ようやく屋敷の扉をくぐっていく。



重厚な扉が閉まる音とともに、王都での新しい時間が静かに始まった。

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