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戦場の紅蓮姫  作者: エル
王都編
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第32話『旅立ちの朝』パート1:通達の朝

朝――。


 


灰の砦を覆う空は、抜けるような青さを見せていた。


 


 


リリアナは、砦から少し離れた更地で、鋭く地面を蹴った。


 


体を包む魔力を、一気に押し上げる。


 


「紅蓮弾!」


 


放たれた火球が、空気を裂く。


 


だが、それを真正面から受け止める者がいた。


 


「かかってくるのー!」


 


イチだった。 小柄な身体に風を纏い、リリアナの火球を吹き飛ばす。


 


「まだまだ!」


 


リリアナは連続で炎を操った。


 


「紅蓮槍!」


 


手のひらから、炎でできた細身の槍を三本作り出し、一気に放つ。


槍は空を穿ち、イチを狙って一直線に飛ぶ。


 


「うわー!」


イチが素早く飛び退く。


だが、その直後――


 


「紅蓮流!」


 


リリアナの両手から、幅広の火炎流が放たれる。


更地をなぎ払うように広がった炎が、イチを呑みこもうとした。


 


「負けないのー!」


 


イチは風の壁を張り巡らせ、火炎をなんとか押し返す。


 


その隙に、リリアナはさらに詰め寄った。


 


「烈火斬!」


 


剣に纏わせた炎で、斜めに一閃。


刹那、イチの足元に火花が散った。


 


(――やれる)


(ちゃんと、前よりも押し込めてる)


 


胸の内に小さな確信が芽生える。


 


リリアナは、ここ数日、セリスやヘルダス隊と連日訓練を重ねていた。


最初はただ火を出すだけで精一杯だった。


今は、明確に「戦いの中で使える技」を、意識して繰り出している。


 


その成長を、リリアナ自身が肌で感じていた。


 


 


ふと視線を横に向けると、別区画では――


 


セリスが、ヘルダス隊三人(ニオ、テト、コヨ)と本気の魔法打ち合いをしていた。


 


セリスの雷撃が、空を割るように迸る。


それに氷と岩と風の魔法が次々に応戦し、何度も衝突と爆発が起きていた。


それだけの事を、セリスは魔力制御が施された手袋を装着したまま行っている。 


(セリス……本当にすごい……)


 


一瞬見惚れそうになったが、すぐに目の前のイチに意識を戻す。


 


(私も、負けていられない)


 


再び、リリアナは火球を練った。


 


「紅蓮弾!」


 


イチが、笑って風を巻き起こした。


 


火と風の嵐が、更地に轟音を響かせた。


 


 


 


その頃、灰の砦では――


 


隊員たちが、それぞれの朝を迎えていた。


 


ノアは砦の周辺を軽く見回りながら、偵察訓練。


草むらに隠れて動く小動物を見つけ、一人で勝ち誇ったような顔をしている。


 


ミレイアは、司令室で書類整理。


「この発注………一桁、間違ってるわね」


隣で作業していた兵が青ざめた。

彼が書いたのだろうか。


 


ラシエルは水桶を持って、井戸の近くで水を汲んでいた。


「この私に水を汲ませるとは………どなたの陰謀なのでしょうか」


とぼやきながらも、きっちり作業をこなしている。


 


ティオは民間人の移動補助に当たっていた。


小さな荷物を抱えた老人を手伝いながら、ニコニコと相手に話しかけていた。


 


マリアは医務室で簡単な診察補助。


怪我を見せに来た子供たちの手当てをしながら、優しく声をかけ続けている。


 


ルネは――


 

通路の片隅で空を見上げていた。

 


(……あの雲、蟹っぽい)

 


ぼんやりと風に揺れる雲を眺めながら、それでも誰かに呼ばれたらすぐ動ける位置にはいる。

微妙な器用さを発揮していた。


 


クラウスは、厨房で料理の手伝い。


淡々と野菜を刻み、次々と仕込みを進めていた。


ときどき、厨房のおばちゃんに「手際いいねぇ」と感心され、照れくさそうに笑っていた。


 


 


――そんな中だった。


 


灰の砦の正門に、一人の伝令兵が駆け込んできた。


 


「伝令! 王都より正式文書!」


 


兵士たちがざわめく。


 


伝令兵がまっすぐ向かった先は、司令室だった。


 


 


そしてーー



司令室には、ハウゼン、シアネ、そして呼び出されたリリアナが集まっていた。


 


ハウゼンが文書を受け取り、手早く開封する。


 


「……きたか」


 


無骨な指先で、王都の紋章が押された通達をなぞる。


 


「任命式の日程が、正式に決まった」


 


リリアナは思わず背筋を伸ばした。


 


 


ハウゼンが内容を読み上げる。


 


「任命式は、四日後。  リリアナ隊、ヘルダス隊の一部、ローク搬送班、シアネ様御一行――これらを王都へ召集する」


 


リリアナは小さく息を呑んだ。


 


「四日……思ったより、早いんですね」


 


「急ぎたいのだろうな。国は今、不安定だ」


 


ハウゼンが苦い顔をする。


 


「次々と民間人が連れ去られ、国は何もしないのかと。税で飯食ってる軍は何をしているのだと」


 


シアネが静かに言った。


 


「第三部隊の復活は、ただの軍事上の話ではありません。  民に希望を示す、"国の光"となるべきものです」


 


リリアナは、胸の奥で何かが鳴るのを感じた。


 


――あの日、自分が掲げた「守るために戦う」という決意。


 


(そうだ。私たちは、守る側だ)


(命を、未来を、希望を)


 


シアネがそっとリリアナを見た。


「あなたになら、できると信じています」


 


リリアナは小さく頷いた。


 


「……必ず」


 




命と引き換えに民間人を守り、未だに目を覚まさないローク。


セリスでも全治二ヶ月を要した極大魔法、"それ"を行使したキユ。


彼ら二人は王都の専門機関にて治療を受けることとなった。


そして、カイルの魔法と直接対峙した参考人として、コヨ、テトも同行するようだ。





リリアナ隊と、ヘルダス隊の三人。


ロークの搬送班。


シアネとその護衛。


 


新たな旅立ちが、今、静かに動き出そうとしていた。



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